「ところで」 「なーに、マーシー」 きょろきょろと辺りを見渡しながら歩く玲奈に、首をかしげながらついて回るマーシー。 雑踏の街中は人が多すぎて、あの目立つ白衣姿の博士をもってしても見つけるのは困難であった。 「私たちはどうして博士を探しているのでしょうか」 訪ねた言葉に、ぴたりと立ち止まった玲奈は、困ったようにしてマーシーを振り返った。 金髪の髪にモデル並みの身長を有したマーシーの顔を覗き込むのは少しばかり首が困難であったが、それでも玲奈は顔を覗き込んで言い切った。 「探して、二人して『ゴメンナサイ』って言うの、決まっているでしょ」 「……決まって、いたのですか」 「そーよ、だれだって子供のときには教わるものなのよ『悪いことをしたと思ったなら、謝りなさい』ってね」 「悪いこと、したのですか?」 「そうよ、博士にしたくないことさせちゃったんだもの……あの子のことだから、きっといまごろしょげてるのよ」 唇を突き出して、溜息をついた玲奈。マーシーはそんな玲奈をみてますます首を傾げた。 「……よく、分かりません。博士は、私に失望したのですか」
心なしかうなだれているマーシーの姿に彼女は驚いて、つくづく博士とその仲間をすごいと思った。彼が、どうしても彼が機械だなんて、人間じゃないなんて信じられなかったのだ。
「違うよー、きっとね博士はマーシーのことが大好きなんだよ。そういうこと」 「よく、分かりません」 うなだれた美貌の青年の瞳が玲菜を見詰めた。 どことなく頼りなげにこちらを見てる視線の中には博士はいない。あるのは自分とその周りの風景だけだ。 玲奈は満面の笑みでにこりと微笑んだ。マーシーは不思議そうにそれを見詰めている。 「大丈夫、マーシーならきっと分かる日が来るよ。博士はね、ああ見えてものすごく分かりやすい人だから」 「分かりやすいのは、玲奈さんの方だよ」 背後から聞きなれた声。 「うひゃっ!は、博士ぇ!?いつものことだけど、いつの間に!?」 「いつものことだから、省略したいけど、さっきからいたよ。玲奈さんが気付いていないだけ」 澄まし顔で、そこに立っていたのは博士だった。 「玲奈さんはどうにも、お節介なところがあるからね。私を心配してくれて来てくれたんだろう?」 「う、はい…そうですよー、あんな顔されて心配しない友達がいのない奴じゃないですからね、それに説明もしてもらうわよ、マーシーのこと」 「はいはい」 玲奈に適当な返事を返したあと、博士はマーシーを見た。 「マーシー」 「はい、博士」 返事を返しただけだった。にもかかわらず、どこか博士はほっとしたようにマーシーをみて微笑んだ。 「帰ろう、マーシー」 「……はい、博士」 尋ねたいことがあった。 疑問を投げつけるのは今のマーシーにとって成長プログラムの一つだった。なのに… マシーナリーエージェントはその時、その意味もわからず、生まれて初めて自制を覚えた。 第九節 終 |