誰がために何をする? VOL.4

 

 

「まあまあ、ここは一つ皆さんの役割に当てはめた配役にしていきませんか」

 

こちらも、先ほどまで無言だった(こっちはどちらかと言うと面白そうに見ていたのだが)パーシヴァルが、先ほどの恐ろしいクジの結果にさすがに恐れをなして、提案をしてきた。

 

「当てはめる?」

 

よく意味がわからないヒューゴはパーシヴァルに聞き返すと。

 

「そうですね、例えば『傭兵』なんて私やナッシュ殿は殆ど地でできますし、ゲド殿は…余り台詞のない『乳母役』とか…」

 

「ふんふん」

 

もっともらしく言われ、思わずうなずくヒューゴ。

 

 

「ん?それって…あと残ってる『ロミオ』と『ジュリエット』が俺とトーマスってことじゃないかっ!!」

 

「えええええええっっっ!!!」

 

同じく、横でパーシヴァルの意見にうなずいていたトーマスが悲鳴をあげた。

 

「うーん、確かにそれが一番ましな配役ですよね」

 

不幸の代名詞でもあるナッシュも、今回ばかりは自分に火の粉が回らないようにそれをフォローする。

 

「ちょっとまてっ!それは自分じゃないからそんなことがいえるんだろっ」

 

たとえ、ロミオになれたとしても、やはり男を口説かねばならないし、ジュリエットなど論外だ。

 

「俺は、ぜっったいしないからなーっ」

 

「まあ、まあ、リーダーなんですし…」

 

「関係ないよっ、そんなの!」

 

「そんなことないですよ。やはり、リーダ殿は主役でなくては」

 

「あ、あの…じゃあ、僕は余り関係ないんじゃ…」

 

「城主は、リーダーの次くらいに偉いのでやはりそこです」

 

「そ…そんなもんなんですか?」

 

パーシヴァルの口車に必死に抵抗するヒューゴと、丸め込めかけられてるトーマス。

 

 

と、そこで本人達にすっかり忘れられていた(というか、忘れていたかった)ナディールが「ふーむ」と意味深な言葉を吐くと

 

「どうやら皆さん、余りこの演劇に気が進まないみたいですねぇ」

 

『あたりまえだっ!』

 

ユニゾンする5人。こんなときだけ、気がばっちりあう。

 

するとナディールは「やれやれ」のしぐさをすると「ふぅ…」とため息をつくしぐさをした。

 

「…なんかソレ、そこはかとなくムカツク」

 

「…だいたい、男だけで『ロミオとジュリエット』をするのがそもそも間違ってるんだよ、どうせなら『帝国の愛』とかさ…、そしたら結構いけるんじゃないか?」

 

ヒューゴのその言葉を聞いたナディールは首を振り。

 

「アンケートですし」

 

「もう、そこから離れろよっ!」

 

「むう…。ですが…」

 

そう言ってしばらく黙り込むそして――…

 

 

ぽむっ。

 

 

急にナディールは手を打つと。

 

「分かりましたっ!皆さんはつまり『ロミオとジュリエット』が『恋愛もの』だからいやなのでしょう!?」

 

「ま、まあ大体そうだけど…」

 

根本的にそもそも参加をしたくもない。というのを覗けばおおむね不満はそうだったので、うなずくヒューゴ。

 

「ならばっ、いっそのこと今回の『ロミオとジュリエット』は『恋愛』抜きということにしましょうっ!!」

 

「どんな『ロミオとジュリエット』だよ、それっ」

 

「つまり、主人公である『ロミオ』と『ジュリエット』。二人の家同士は仲が悪いのですが、それ以上にお互いの仲が最も悪いっ!!」

 

「ちょっとまてーーっ!!」

 

あまりにとっぴなナディールの話に、思わず静止させようとするヒューゴ。しかし…

 

「…そしてクライマックスは互いの決闘シーンです。

 

ロミオはジュリエットに毒のついた剣で切りつけてしまい。ジュリエットを殺した罪で刑に処せられるのです」

 

「あの…もしもし?なぁ、聞いてる?」

 

のりにのって語るナディールの口は誰にも止められない。

 

「しかし、ジュリエットの傷は浅かったおかげでなんとか息を吹き返しました。だが、しかしっ

 

その時人生最大のライバルはいなく…、途方にくれるジュリエットはその場で命を捨てるのです!!!」

 

「………」

 

「ああっ、なんて合理的かつ、斬新なストーリー!!コレならば皆さんも納得していただけるはずですっ!!」

 

 

そう言って、輝かんばかりの笑顔で(仮面だからつねに笑顔)こちらを振り向いたナディール。

 

 

―――その時、なぜか心穏やかに、皆の心は決まっていた―――

 

 

そして、静かにヒューゴは皆に呼びかけた。

 

「なぁ。皆、おれ…」

 

「みなまで言わないでくださいヒューゴ殿。むしろ、はじめからそうすべきだったのです」

 

「…ああ」

 

「まぁ、そうした方が世の中の平和のためだよな」

 

「あ…あのー、皆さん。余り派手にはしないでくださいね…」

 

「おや、どうしたんですか皆様、そんな怖い顔で。こんなすばらしい日にもったいない。配役は私の独断ですが、もうすでに決めておきました。むろん、心の中で。さあ、皆様は奥のほうで舞台の準備をお願いしますよ。しかも、迅速に」

 

輝くような声で5人に話し掛けたナディールに、ヒューゴは息をすい、そして吐いた―――

 

『一人で勝手にやってろっっっ!!!』

 

とりあえず、皆でナディールをたこ殴りすると、遠い遠いところまでフーバーに捨ててきて貰った。

 

 

―そしてその後…

 

「あ、ヒューゴ様」

 

アップルに呼び止められ、通り過ぎるのを止めるヒューゴ。

 

「今日、演劇に参加されるんじゃありませんでした?さっき、私の知り合いの方が、久しぶりに会いにいらして「何か面白い物はないか」と聞かれたので、今日はリーダーが演劇に参加されることを教えて差し上げたのですけど」

 

「ああ、あれ?」

 

ヒューゴは、アップルの言葉にニッコリと微笑むと。

 

「たぶん、もう二度と上演されることは無いから」

 

そう言って、アップルの前からスッと去っていったヒューゴは

 

なぜか、長い戦いを終えた戦士のような、すがすがしい顔をしていたという…

 

 

 


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