7放課後の計画





 うーん……。なんだったっけかなぁ、どっかで確かに…
 あたしは、あれからと言うもの、授業中もずっと気にかかって頭のこびりついている何かに、頭をうならせていた。

「…っい…」

 うーむむむむ。

「おいっ」

 すこーーんっっ!
 悩ましい頭に、勢いよく拳が振ってきた。

「痛ったーーーっ」

 考え事をしていたせいで、突然の背後からの衝撃にあたしはもんどりうつ。

「…っ!!なにすんのよ!」

 そう言って背後のほうを睨みつける…と

「おまえがボーッしてるからだ」
「久賀達也…」

 人の頭を殴っておいて、よくもまあずうずうしく言えるもんだわ。
 あたしは、にがにがしく歯噛みしながら、久賀を睨みつけた。すると、違和感が先走り、先ほどのみの虫と今のみの虫の差異を見つけ出すように、あたしはしげしげと見つめた。

「あーーっっ!」

 あたしは奴の顔をみて思わず叫んでしまう。

「ず、ず、ヅラ、取れてるわよあんた」

 あたしは今朝見た、ゾロ長い髪の毛じゃなく、昨日の夜見た、彼の短髪の姿をみて指を指した。
 こんな髪じゃ、さすがにばれるわよ。
 と、あたしがあたふたと教室を見回すと…あら?

「誰も…いない?」

「土曜の放課後に、いつまでも人が残ってるわけねーだろ」

 いつまで、寝ぼけてんだ。
 とでも言うようにあきれて、ため息をうつ。
 そう言えば今日って土曜日だった…と、あたしはポリポリと、先ほどみの虫にはたかれた場所を掻く。
 …しかし、もう今更、どーでもいいんだけど、ええもう、本当にどうでもいいんだけど、どうしても言わずにはいられない。

「つくづくあんたそのカッコ気色悪いわね…、お願いだから、せめてヅラはかぶってて欲しいんだけど」

 みの虫の倒錯的…いや、それを越えて何か新しいジャンルのような、セーラー服姿にめまいを覚えながら、あたしはみの虫に頼んだが、

「むれるから、嫌だ」

 と、あっさり却下された。

「誰もいねーんだから気にすることないだろ」

 いや、あたしが気にするんですけど。
 しかし、みの虫があたしの気など気にするわけがない。

「そんなことより、アレを取り戻す計画を早く立てるぞ」

 アレ…とは例のみの虫が握られている弱みの紙切れのことだろう。
 意気込むみの虫を見ながら、あたしの士気はダダ漏れである。

「無理…なんじゃないかなぁ」

 ボソリ、と呟く。

「無理でもやるしかないだろ」

 そんなあたしの声に、みの虫は静かに言い放つと、彼はあたしの座っている机に腰掛け、ボウとしているあたしに被さるように睨みつけた。

「それとも何か、あんたは俺と結婚したいのか?」

 一瞬、ほんの一瞬だけ、そのセリフを吐いた時の瞳が、かすかに揺れた気がしたが
 はっとした、あたしは全力で首をふりまくった。

「なわけないでしょ」

 気おされて、あたしが答えたときには、みの虫の眼は、以前の厚顔不遜の瞳に戻っていた。
 「ふん」と言いながら、机から身を離し、今は誰もいない教壇の前でみの虫はセーラー服の胸元から、生徒手帳を出した。

「すでに、計画は練ってきてある、あとはお前との打ち合わせで完璧だ」

 一体どんな完璧なのか、どうやら難しい顔をして窓を眺めていたのは、そのことをずっと考えていたためらしい。
 呆れているあたしの前で、チョークを握り締めて、あたしの家の見取り図を黒板に書き出したみの虫。

 その『完璧な計画』を聞いていくうちに、ますます現実から逃避したくなるあたしであった。

















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