6.いつかどこかで





「みのりさん、あの方とお知り合いなんですの?」
「どういう方なのかしら?」
「誕生日は?」
「好みのタイプってどんなのかしら」

 屋上からみの虫と帰ってきたあたしは、早速質問の嵐にあった。

「えーと、それは…」

 返答に困る、あたし。
 そういえば、転校初日にやってきた同級生を教室から引っ張り出すなんて、初対面の人間同士で出来るものではない。
 だけど、説明もできない。とくに最後の質問は心底無理だ。

「昨日あたしの婚約者ってことで、拉致られて知り合った男の子なんですぅ」などと言えるわけもなく、というか言いたくも無い。とにかく何とか責任転嫁をしようと視線をいまだにムッツリとしているみの虫に向けた。

「あ、やっぱこういうのはさ、本人に聞いてみたら?転校初日だしみんなに話かけてもらえたらうれしいだろうし」

 などと、嘘八百を延べるあたし。と、彼女たちは眉をひそめて

「あ、でも…、なんだか、話し掛けづらくて…」
「話し掛けづらい??」よく分からなくて、眉をひそめた。

 クラスメートの一人である江藤さんは、そんな不思議そうなあたしに、苦笑を返した。

「だって、あそこまで、綺麗で…、おまけにあんな吸い込まれそうな緑色の目をされていると、なんだか気後れしてしまって、どうしても話し掛けづらいのですわ」

「き、綺麗っ!?ど、どこがっ!!」

 思わず、顔が引きつるのがわかる。
 あの変態のどこが…!?と、言いたいのを何とかこらえたあたしに、問い掛けてきた同級生はさもびっくりしたように。

「どこがって、どこもかしこもですわよ!…モデルのような身長に、よく通るハスキーボイス、それにあのお人形のような緑色の瞳をされていたら、どんな男の方でもきっとイチコロですわ、上杉さんほどの方なら、なんとも思わないかも知れないけど…、あたくし達には、近寄りがたくて…」

 一瞬でも、みの虫が男に言い寄られている場面を想像して、クラクラする。
 身長も、声の低さも、単に男だから…とは言えず。
 そ、そんなもんなのか…。と、あたしはジト目で、みの虫の方を見る。
 むっつりとただ黙って窓を見ている、その様ははっきり言って不機嫌そうである、たぶんこれが彼女達の言う『近寄りがたい雰囲気』と言うものだろうか。
 陽光に照らされたみの虫の瞳がますます緑の色を際立たせてた。

 …どこか違う国の血が混じっているのは確実だろう。たしかにこうして見ると、明らかに日本人離れしているみの虫の容貌は、多少の違和感を誤魔化してくれているのかもしれない。うーん、どうだろう、性別を多少で誤魔化せられるものなのか、正直分からない。


「……ん?」


 そう考えたとき、ふとあたしの頭の中を何かが引っかかった…
 あれ、あたし、どっかであんな目の色したやつ、前に見たことあったっけ??
 すると、あたしが、あんまりにもじっと見ていたのに気づいたのか、みの虫が「なんだよ」と言いたげな目でこっちを振り向いた。

 それに、反発するように目をそらす。
 ん?あれ、なんで目を逸らさなきゃなんないわけ?

 結局、級友には「ごめん、じつはあんまり知らないの」と言って、あやまり。(事実だし)
そして、あたしの方は、

(みどりいろのめ……?)

 妙にその意味に、頭を鈍く鳴らされて……
 なんだかすっきりしない気持ちで、授業をうけるのであった。
















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