4.謎の美少女転校生?
あたしの通っている学校は、県内でも有名な金持ち学校である。
中小企業から大企業まで、果ては各界、どの生徒を取ってもお金持ちと言わしめる権力と財力のある親がいるような学校だ。
ちなみに注釈を入れればあたしの父にそんな財力も権力なんてかけらも無い。…まあ、なぜそんなあたしがこの学校に入れたのかと言えば、それは後々分かることなので今は割愛する。
ともかくこの 『私立 信愛女子高等学校』。
名前の通り、女子校である。ええ、通学する全ての生徒がセーラー服を身につけているところから見ても、たとえ誰がどう見たって女子高である。つまるところお嬢様学校なのだ。
したがって…
「転校生を紹介します」
例の騒動があって、翌日の朝。
訳の分からないみの虫の出現と、その後の頼まれた件で頭を悩まされたりと、すっかり寝不足なあたしは、ど真ん中の前から2番目という最悪ないまの座席の位置に、気力だけで頭を上げ、やってきた担任に眼を向けた。
まだ30を手前という清潔なスーツを身に着けた女性は、いつも穏やかで、みんなにも人気のある担任である。彼女は、いつものように穏やかに教壇の前に立ち、何かを手招きすると、挨拶するよう促した。
えーと、なんていったっけ、転校生?
「久賀達江です。よろしく」
名を名乗り、背中まで流れる栗色の長い髪の両脇をリボンでくくり、いかにもお嬢様だという、楚々と顔をクラスメイトに向けるその人物に、あたしは寝ぼけた頭が一気に覚醒した。
く、久賀達也っ!!
なんと、そこにはうちのセーラー服を着て(もちろんスカート)、女物のカツラをかぶったみの虫が目の前に立っていた。
がごんっ!!
と、よっぽど慌てていたのか、あたしは机に座っていたのも気づかず、そのまま立ちあがろうとし、勢いよく膝を机に打ち付けてしまう。
「〜〜〜〜っっ!!」
あまりの、痛さに声が出ず、涙目になりながら膝をさするあたし。
そんな、あたしを、回りのみんなの視線が集中する。
あたしは、そんな視線をものともせず、先生をにらみつけ
「先生っ!一体どういうことですかっ!?」
そう言うあたしを、先生は、心底不思議そうにを見て、
「どういう…とは?」
と尋ねてきた。本気か?本気で聞いてるのだろうか?
まじめに首をかしげる先生に、思わず顔が引きつるが、あたしはきっぱりとはっきりと言った。
「ここは、女子高です!男が入学して言い訳ないじゃないですか!!」
そう言うと、あたしは更に目つきをきつく、みの虫の方をにらむ。
みの虫の表情は、いったって平然とした顔である。いやもう全て諦めたような顔なのかもしれない。まるで仏様のように微笑んでいる。ぶ、不気味だ。
しかし暴露したあたしに、先生はなぜかみの虫の方ではなく、あたしの方をやたら非難がましくみると、先生の得意技お説教モードの表情を向け。
「…上杉さん。人の身体的特徴を非難して、ありもしない疑いを向けるのは、先生感心しませんよ?」
「身長180cmのうえ、あんな野太い声の女子校生がいますかっ!」
それに、こいつはれっきとした、本物の男です。
と、あたしが言おうとした矢先――
スタスタと、みの虫があたしの方に近寄ってきた。
もともと、顔の造作は悪くないだけに、しゃべりさえなければばっちり美少女でも通るであろう、みの虫のその颯爽とした容貌に、クラスの女子が思わず「ほぅ」と言うため息が出るのが聞こえる。なんなんだろう、この異様な光景。
そして、教壇からさほど遠くない、あたしの席まで来たみの虫。思わずあたしは、みの虫に対して構えると、彼はあたしの耳朶に唇を寄せた。
「これ以上話したら、俺はここで『その、女装している私の婚約者は、上杉さんなの〜』と叫ぶからな」
………………絶句。
あたしは、開きかけた口をパクパクと金魚のように動かすしかなかった。