あんたなんて、大嫌い!!



3.キスとは奪うもので

 




 

後輩たちの奇怪な視線を潜り抜けて、一限が始まる前になんとか帰ってきたあたしと、みの虫。

自分の机まで何とかたどり着くと、あたしはため息をついた。

まったく…、なにがなにやら、とにかくえーと………一言で言えば。

 

 

つかれた。


 

みの虫がやって来てからというもの、なんだか休まる暇がないような…。

そう思うと、思わずさっきの勝ち誇ったようなみの虫の顔を思い出して、むかっとする。

まさか、みの虫がああも順応できるとは思いもよるわけがない。

と、思ったのに、あの順応のよさはなんだ。

この女子高生活に慣れるのにあたしは半年かかったのに!

今もなお、他の女子とけらけらと笑いあう、みの虫を目の端に入れてしまい、なんだか無性に腹が立った。

「ったく、あの多重人格め」

「ん、どうした。珍しく本気で怒ってるね」

独り言に唐突に返事が返ってきた。

「うわっ、ふ、文生!?」

「やぁ」

いつの間にか、というか初めからそこに居たように、あたしの友人はこともなげに挨拶した。

「って文生、もうじき授業よ。文生のクラスにもどらなくて…」

「ひどいなぁ、先週からずっと会ってない友人に言う台詞がそれ?もうちょっとこう、お互い抱きしめて再開を喜んでみたり」

「しない、しないから」

本気でしようとする文生をけん制しつつ思わず席を立ちあとずさりしようとするあたし。

 

とん。

 

「あ、久我たつ…あ、いや久我さん」

一歩後ろに引いたあたしの後ろには、先ほどまで他の女子と話をしていたみの虫。

「あんた、誰?」

見知らぬ女生徒(?)に、首をかしげながら、みの虫を凝視する文生。ああっ、そんなに見るな。ば、ばれる!

あたしの内心などお構いなしに、文生はみの虫を見つめ続ける。

その言葉に口を開きかけたみの虫「あんたこそ…」と何かを言うその前に、あたしはそれをなんとかさえぎりみの虫と彼女の間に割り込んだ。

「か、彼女は転校生よ、転校生!ほら、先週末に来たって話、聞いたことない?」

そう言ったあたしの言葉に再びみの虫を見る彼女。う、疑われてる感じは無いけれど、其れは、それで非常にやばい。

やばい、これはやばすぎる。

「ああ、そう言えば…」と、相槌を打つ彼女。そう言って、髪をうるさそうに掻きあげた。

大雑把に切られたショートカットの黒髪。本人曰くめんどくさいから自分で切っているとのこと。

身長は女子では相当に高い178cm。女子高で頭ひとつ出たみの虫の身長がすごくふつーに見える。

切れ長の目に小さな顔、へたすればその辺のモデルよりもかっこいいかもしれない。

どちらかといえば男性的な雰囲気を持つ彼女だけど、きっぱりと女性である。ええと、誤解の無いように、彼女は女性である。

「転校生の、えーと久賀…」

「達江です。はじめまして。あなたは、みのりのお友達ですか?」

あたしの紹介をさえぎるように、さらに、あたしの前にでて、彼女に尋ねるみの虫。

ばかっ、とあたしは小さく舌打ちをする。

その声が聞こえたのか、みの虫は首をすこしだけあたしのほうに向けた。

「ああ、そういえば転校生の話は聞いたな、とびきり綺麗な女の子だと聞いたんだが…」

彼女はそういうと後ろをむいたみの虫のあごを強引に手をかけ…って、うわぁ、やばい!

文生(ふみお)!やめなさいって!」

あたしは、彼女のいつものたちの悪い癖を叫んで静止をかけた。けれどそれは一足おそく

彼女はみの虫の何もわかっていない顔に自分の顔を近づけると、自分も顔を寄せ――

 

キスをした。

 

思わず教室の窓辺から遠くを見てしまいそうになるあたし。

キスされたみの虫は、驚きのあまり硬直している。いや、指だけは震えている。

そんな、みの虫から顔を離した彼女はにっこりと笑い

「はじめまして、私はみのりの友人で近々恋人予定の斉木文生。この学校の生徒会長です」

「恋人になんてならない、ならない」

とりあえず、いつものやり取りではあるけど、一応つっこむあたし。

彼女は私のこの学園での親友で、悪友なのだけれど。とんでもない悪い癖と性癖があった。

キス魔と女好き、である。

いまだ固まったままのみの虫。何が起こったのか、いまいちわかってないらしい。

「転校生の話は私の耳にも届いてたよ。実をいえばそのために来たんだ」

そう言った文生はあたしの肩に手を回して

 

「みのり、それと久我さん。悪いけどちょっと生徒会室まで連行ね」

 

「はぁ!?ちょっと、文生どういうことよ。だいたいこれからまだ授業が…」

 

「問答無用ー」

 

分けがわからないあたしと、同じく混乱しているのか、固まったままなのか、どっちか分かんないみの虫をそのまま引きずるように、文生はその場からあたしたちを連れ出したのだった。

 

分けも分からず、文生に連れ出されたあたしたち。

あたしは、というと。

内心、みの虫の驚いた顔に、少しだけしてやったと、なんだかにやにやと笑うのであった。

 

 

 

 

 



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