他人の不幸は蜜の味 後編

 

4.

 

 

ガタ…ガタ…ゴト…。

 

馬車の揺れる音と、複数の男たちの笑い声に、ソニアは目が覚めた。

 

すると目の前には先日から旅をしてきた少年の姿ではなく、むっさい親父の顔だった。

 

「まぁ。」

 

声を出した彼女に反応して、親父が笑う。

 

「おや、ソニア姫、お目覚めですか。申し訳ありませんが、しばしの間私どもとご一緒願いあげます」

 

そう言って、姫が納得するはずも無いと思っていたが親父が彼女のほうを見ると。彼女はニッコリと

 

「わかりました。私しばらく眠りますので、よろしくお願いしますね」

 

そう言って、先ほどもしこたま眠ったのにも拘らず、またすぐ、熟睡した。

 

「………」

 

拍子抜けした親父だが、完全に眠ってるのを確認するとあきれたようにため息をついた。と――

 

 

ガコンっ。その音と共に何かが転がる音がした。

 

「何だぁ!?」

 

親父が外にいる奴に声をかける。どうやら彼は、この盗賊の俗に言う親分らしい。

すると、親分の質問に答えようと、子分のひとりが

 

「すみませんっ、馬車の車輪が外れた見たいっす!」

 

「バカヤロ!さっさと直せ」

 

「ヘイ!」そう勢いの良い返事を返した子分に、今度は別のところから悲鳴があがった。

 

「うわぁぁぁっ!」そう叫ぶ子分に「何だ!!」と答えると

 

「く、熊が現れました!スッゴクでかいっす!!」

 

「そんなものぁ、手前らで処理しやがれ!」

 

そう一喝する親分。「やれやれ」と腰を落ち着けようとすると

 

「ぎゃああああっっ!!!!」

 

…またしても、叫び声があがり「一体なんなんだってんだ!!?」と、子分に尋ねる声はすでに泣きそうであった。

 

「お、お、親分…」

 

「さっさと言え!!」

 

「で、伝説の珍獣『ブタモウマイヨー』が出てきました!!!」

 

「ん、なにぃっっっ!?」

 

 

…とそんなこんなで、三日三晩盗賊たちはなんだかよく分からない物と戦い、そして逃げ、挙句には死んだふりまでして

 

 

ようやくニーナ国にたどり着いたのだった。

 

 

5.

 

 

と、それから二日ほど後にラフィはニーナ国に入国できた。

 

もともと、ラフィのみならば旅の肯定が格段と早くなるので、ニーナには予定よりも随分と早く着いた。

 

 

「さーて、手紙には国の『大鉄柱』ってところに来いと書いてあったから…あれだな」

 

どこからでも目立つどでかい鉄柱を見つけると、スタスタと歩き向かうラフィ。

 

すると…

 

ピクリ、とラフィの眉が振れる、そして何も無い眼前をにらみつけると。

 

「誰だ!出て来いっ!」

 

周囲に張り巡らせたかのような殺気の網に怒鳴りつけた。

 

その声に感応してか、どこから沸いたのかも分からないほどの盗賊たちが現れ、ラフィを取り囲んだ。

 

が・・・

 

「…なんでお前ら、そんなにボロボロなんだ?」

 

酷くやつれた盗賊たちに、思わず肩透かしをくらったが、そんなことはお構いなし。

問答無用で盗賊たちはラフィに襲い掛かった。

 

「うおおぉぉぉ」吼える盗賊を見るや、ラフィは実に楽しそうに口元をほころばせ

 

「じゃ、ちょっとばかし肩慣らしでもするかあ」

 

すると、いつの間に手にとっていたのか…、右手に剣を持ち、左半身に構えると――

 

…ッチン。

 

剣を鞘に収めた。

 

「あ?」

 

ラフィを外側から囲んでいた盗賊たちは一様に「???」という顔をする、しかしその数秒後

 

ドシャッ…!

 

ラフィを囲んでいた前方の連中が一斉に崩れ落ちた。

 

「「!!!!!」」

 

さすがに、コレをみて盗賊たちはビビリった、ビビリまくった。

そんな盗賊たちの事などお構いなしで、ラフィは実に楽しそうに一歩前に出る。

 

「さぁ、次はどいつからだ?言っとくが俺の個人授業受けれる奴なんて、騎士団でもめったにいないからな、感謝しろ」

 

感謝なんてしたくない…、そう思いながら一歩づつ前に進みよってくるラフィに後ずさりする盗賊。

 

そんな中…

 

パチパチパチパチ

 

サッとラフィの背後の盗賊が端に動く、ラフィがゆっくりと後ろを振り返ると

 

「オヤブン!」子分の盗賊の一人が悲壮な声を上げて叫ぶ。

 

ラフィに姿をあらわしたのは、ソニア姫を拉致した盗賊団の頭目、その人だった。

 

またしても、なぜかは分からないが、そのオヤブンは子分にもまして満身創痍であった。

 

「さすが聖騎士さまだ。あの大陸大戦でギュネメー<死者を築く男>と称されるだけはある」

 

その言葉に、ラフィの目つきが変わる。

 

「あの時、あの戦で使われることとなった剣。民衆には聖剣とも呼ばれる代物―だが、実のところは違う。

 私はコレでも剣のコレクターでね、あなたの持つ『魔剣』が欲しいのですよ」

 

一歩、ラフィはオヤブンに近づく。

 

「おおっと、この姫君が見えないのですか」

 

そうして、近づくラフィをけん制するように、抱えていた姫君をみせる。

彼女は気絶をしてるらしく、ぐっすりと眠りこけている。

 

「騎士ならば、姫のために大人しく剣を渡すのがセオリーではないですかな?」

 

不遜な顔で笑うオヤブン。ただし、あくまでボロボロだが。

それを聞くとラフィは顔を伏せ、手にしていた、剣を鞘に収める。

それを見て、勝利を確信したオヤブンはひょこひょことラフィに近づいた瞬間――

 

「あいにく、俺は不良騎士でねっ!」

 

「なっ!」

 

バッと顔をあげ、不敵な笑みを浮かべるラフィに、焦るオヤブン。その隙をラフィが逃すはずも無く…

 

「ぐぇっ」

 

見事にオヤブンに一閃し、オヤブンは後方に転がる。

 

「騎士だのなんだのめんどくせーこと、俺が知るか。俺が守ると誓ったのはあの『アホ』なんだよ」

 

遠い先で、カイルのくしゃみが聞こえてきそうだが、とりあえずほっとくとする。

 

「くっ…、こんな子供だましで、私は死ぬのか……て、あれ?死んでない?」

 

「当たり前だろ、刃引きもできねーほどの、くず剣だからな」

 

 

………沈黙。

 

 

「え。それ魔剣…、つーか聖剣じゃないの?」

 

「うん」

 

「まぁ、それはどうしてですの?」

 

「うーん、だって俺もうそんなの必要ないし、それにあの剣カイルにやっちまったし――

 大体いま聖騎士なんてうざったいのやってるのも、ガキの頃にカイルに拾ってもっらた借りで仕方なくしてるだけだしな―…って」

 

バッ!

 

とっさに声がした方を振り向いたラフィ。

そこにはチョコンとソニア姫が立っていた。

 

「え〜と、なんで姫ココにいるの?捕まって気絶してたんじゃ」

 

「いやですわ、ラフィさま。私、あの方たちの馬車でニーナまで送っていただいただけですわよ」

 

がっくり…、まるっきり肩の力が抜けるラフィ。

 

「あ、あのなぁ…」

 

と、文句の1つも言おうとしたが

 

「まぁ、ココがニーナですね。早速お城のほうに向いましょう」

 

そう言って、とっとと歩き出したソニア姫をみて、何かを言うのをあきらめたラフィは、スタスタと彼女のあとについていったのだった。

 

 

…そして、その場を立ち去るラフィたちをボーゼンと見送った、オヤブンとその部下たちは

 

「一体なんだったんだ…」

 

嵐のような不幸に、力尽きたのだった。

 

 

6.

 

 

トコトコと歩いてようやく王城に着く二人。

 

ラフィの任務は彼女を城まで送り届けるだけだったので、別れの挨拶に再び手にキスを贈り

 

「元気で」

 

簡単にそう告げた。すると姫も満足げに

 

「会えて光栄でした聖騎士さま。私、感激いたしました。私と一緒にいらっしゃって、まるで無傷なんですもの。さすが聖王様のおっしゃられた通りの方でしたわ」

 

「…は?今なんて…」


まるで無傷、とはどう言う事なのか聞きかえしたのだったが、姫はカイルがなんて言っていたのかを尋ねたのだと思い。

 

「ええ、聖王様はラフィさまは『象が踏んでも壊れませんから。』と、おっしゃってましたわ」

 

(あのやろぉ、そんなことを…)と、心の中でカイルに散々罵詈雑言を浴びせると

 

「いえそうではなくて、どうして無傷だと驚くんですか?」

 

そう言うと、姫は「あぁ」と呟くと、ため息をつき

 

「…どうも私、人の運を吸い取って自分の物にしてしまうらしくて、必ず周りの人は私といると、不幸が訪れてしまいますの」

 

困りましたわ。といって、簡単な挨拶をして別れるソニア姫

 

手が震えた…


ラフィは、じぶんが歯を痛いほど食いしばるのがわかった。

 

そして、走馬灯のようにここ数日の不幸な出来事が思い出された。

カイルは知っていたのだ、当然だ、知らないわけが無い。…ということは

 

「あんのやろうっっ!今度こそぶっ殺すっ!!」

 

そう言うなり、全速力で自分の国へと走るのだった。

 

そして、ありえないことに、馬車で一週間の道のりを、彼は4日で走りついたのだった。

 

 

7.

 

 

「はっはっはっ、あいつ今ごろ大変な目にあってるだろうな」

 

「………」

 

隣に控えている秘書は、青い顔をして聖王の笑い声にだまって耳をかたむけていた。

 

実は、先ほど早馬から連絡があり、ラフィがものすごい勢いでこの城に向っているという知らせを耳にしたからだった。

 

(まったく、聖王様のラフィさまイジメはなんとかならないのだろうか)

 

普段は優秀な聖王はラフィをいじめぬくのに決して手をぬかない。一種のストレス発散法なのだ。

 

「ふぅ」と秘書がため息をつきながら、いまだ笑いが収まらない王をみて、王宮の大工の者に早急に連絡を入れる算段をしようとし、頭を抱える。

 

彼らが一切合財を関係なく喧嘩をしたあとは、ほぼ王宮の3分の1は全壊しているのである。

 

(この連絡の通りだと、あと二日後にはラフィさまが来るはずだ)

 

 

 

――秘書の予想通り、ラフィは2日後に到着し

 

三日三晩カイルと追いかけっこをつづけ、綺麗に王宮の3分の1を壊していったという…

 

 

 


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