<カウントダウン第二弾>

 

賭けの行方

 

 

 

1

 

 

「琴子、お願いがあるの!!」

「ん?」

病院の、ホールで定食を食べている琴子に、同じ第三外科の看護婦、三浦洋子が、琴子に詰め寄った。

 

 

2

 

 

「…なに?こんなとこまで、呼び出して」

と、一階のホールから、病院の屋上まで連れてこられた琴子は、洋子に尋ねる。

三浦洋子は、琴子より1つ年下の一年先輩の看護婦で、お互い、結婚してる者同士、よくおしゃべりもする仲だった。

だけど、こんな改まって話をした事がなかったので、少し変だなぁ。と思いながら、洋子が話し出すのを待った。

そして、彼女は、屋上のベンチにお互い座ると…

 

己の怒りの丈を語りだした。

 

 

3

 

 

「う、浮気ぃっ!?」

「そうなのよっ」

そう言って、洋子は右手に握りこぶしを作り琴子に怒鳴る。

「あのバカっ、こともあろうに、あたしが夜勤でくたびれて帰ってきたら、あたし達のベッドに、女連れ込んで、一緒に寝てるのよっ」

「うそっ…、サイテー…」

「そうよ、ホントもう、サイテーっ!!今度という今度はあたしだって我慢できないわっ」

 

―洋子の旦那は、たびたび、女にだらしがないと、よく聞いていたけど、ここまでとは…。

と、琴子が、洋子の旦那にほとほとあきれていると…

 

ガシッ

と琴子の手を洋子は取る。

そして―

 

「というわけで、お願いね、琴子!!」

 

と、目だけをギラギラと光らした洋子が、琴子の手を固く握り締めた。

 

「…え??」

 

琴子は、わけが分からず、きょとんとするだけであった――。

 

 

4.

 

 

その日の夜――

 

「ただいま」

 

と、入江は家に帰宅すると…。

 

「い、入江くーーんっ」

がしぃっ、と琴子にいきなり抱きつかれ、入江は思わず、受け止めた。

すると、琴子は

「どうしよう、入江くん!!」

そう言うと、おーいおーいと泣きだす琴子に、入江は

(また、厄介な事に首つっこんでるな…)

と、半ばあきらめの、ため息をついたのだった。

 

 

5.

 

 

とりあえず、自分達の部屋に行き、琴子が落ち着くのを、待った入江は

「で、なにが、なんだって?」

そう、問い詰めた。

すると、琴子は涙をぬぐい、入江のほうをじぃっと見ると…

「入江くん…」

「ん?」

「男の人が、浮気するのって、何でなの?」

ぶっ、と思わず吹きだしそうになるのを押さえ、入江は半眼になって。

「…してほしいのか?浮気」

そう言うと

「絶対だめっっ!!」

琴子は入江に必死になって、怒鳴り返してきた。

「じゃあ、なんなんだよ」

入江がそう言うと、琴子は「じつは…」と言って、おずおずと一枚の紙切れをだしてきた。

入江はそれを受け取って、パラリ…、と開くと―――それは

 

『離婚届』

 

一瞬固まる、入江。

が、それもほんの一瞬の出来事で、琴子はまったく、そのことに気付かなかった。

一瞬ですんだのは、すぐに記入者の欄に目が入ったからだ…

 

氏名『三浦 洋子』・『三浦 隆志』

 

「…おい」

と言って、入江はその離婚届を一通り見ると。

「何で、お前が人の離婚届なんて持ってんだよ」

そう言って、その離婚届をつき返してきた。

 

入江から手渡された、それを受け取ると琴子は、再び瞳に涙をため。

 

「そうなのっ、どうしよう、入江くんーーっ」

 

と、入江にそう言ってしがみつくと、琴子は今日昼間にあった出来事を入江に話した…

 

 

6.

 

 

「…というわけで、なんだか分からないうちに、あたしが明日、洋子の旦那さんにコレ渡すって事になってたの」

といって、コレ…、離婚届を再び入江に見せる。

「なんで、おまえがその男に渡すんだ?そんなの、本人達がする事だろ」

「…だって洋子が、…もし自分が会いに行って、話し合ったりしたら、自分があさっての3面記事を飾りそうで怖い…って」

「………」

その言葉に、思わず、何もいえない入江、さらに続ける琴子は

「それに、あたしは、洋子に離婚なんてしてほしくないし、きっと旦那さんも話したらなんとか…」

「やめとけ」

この先の琴子のセリフを、さえぎって入江は

「どうせ、ろくでもねーと思ってたけど、極め付けだな」

そう言って、ため息をつく入江。その様子にカチンときた琴子は

「っ!!なによそれっ、結婚してる夫婦が離婚の危機なのに、ろくでもないってどういうことよっ!」

「そうじゃねーだろ、おまえが説得して、どうなる話じゃないって言ってるんだよ」

「そんなの、分かんないじゃない!!」

「分かるから、言ってるんだっ」

 

むむむむっ…

 

このまま、平行線しかたどらない会話に、むくれる琴子。

と、そこで、ピーンと思いついた。

そして、パッと顔を輝かせて入江を見つめると、琴子は

 

「ねぇ、じゃあ、賭けようよ」

 

 

7.

 

 

「賭け?」

そう聞き返すと、入江は眉をひそめた。

反対に、琴子は嬉しそうに

「そうっ、もしあたしが見事説得して、二人を元のサヤに戻せたら…うーんと、入江くんは、あたしの言う事なんでも聞くの」

(たとえば、夜と朝には、必ずおはようとお休みのキスをしてくれるとか、週に一回はデートしてくれるとか…)

うふふ、と、琴子が賭けに勝ったときの、あらぬ妄想を考えてると

「で?」

と入江が、尋ねた。

「へ?」と、わけが分からず間抜けな声を出すと

「おれが、勝ったらなにかあるのかよ」

…しまった、考えてなかった。

と、しばらく目が泳ぐ琴子だが…

「も、もちろんっ、入江くんが勝ったら、あたしが何でも言う事を聞くわよ」

琴子がそう言うと

「何でも…ね。いいじゃん、賭けよーぜ」

「っ!?ほ、ホントに!?」

以外に、あっさりうなずいた入江に、琴子は、思わず聞き返す。

「ああ」

そして、一言入江が返すと。

 

「その言葉、後悔しても遅いんだからねっ、見ててよね、入江くん!!」

 

当初の目的と、ずれかけているのも気付かず、琴子は、入江に勝利宣言をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

2

 

 

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6/7/2003