西垣先生の憂鬱 2. たしかに、そのことに気をかけていれば、その名前はよく耳にした。 それはまあ、大抵の場合あまり名誉でない所でばかり聞く物であったが。 「入江さん!あなたいつまで時間かければ気が済むんですか!」 「ひえっ、す、すみませ〜ん!」 (お〜、いたいた) 主任の怒鳴り声の元に彼女あり。 今ではすっかり見慣れてしまった風景である、入江くんのドジの現場ににやりと笑いながら声をかけた。 「やあ、入江くん。今日も元気にドジしてるみたいだね」 「む、西垣先生…。今日はまだ、失敗はしていませんからね」 「へえ、そうなの?それにしては今さっき主任の大きな声が聞こえたような気がしたんだけどなあ」 「そ、それは…」 「どう?ぼくで良かったら、そうだなぁ…今夜手取り足取り教えてあげられるけど…」 「結構ですっ」 あまりにもきっぱりと言われ、苦笑する。 ここまで気持ちよく断られた事なんてあっただろうか? いきり立って反論する彼女がおかしくて、なだめすかせるように彼女の肩に手をかける。 「西垣先生!」 入江くんの肩に手をかけたところで鋭い声が背後からかかった。 「あ、田中くんか。どうしたの?」 「こんなところで何をしているんですか?院長先生からお呼びだしですよ」 院長が? 「院長が?」 思わず心の声がそのまま出た。 院長によばれるようなことがあっただろうか? と、気がそれたうちに隣にいた入江くんは遠くにいってしまっていた。 (あーあ、また逃げられたか) どうにもなかなか、彼女はガードが堅いらしい。 (真面目、なのかねえ。それとも一途…) そこまで考えて肩をすくめる。 「ま、長期戦長期戦。なんせライバルは遠い遠い神戸だしね」 (攻略本片手のゲームより、難攻不落のほうが楽しめるってやつだ) そう思いながら、軽い足取りで呼ばれた院長室へ向かったのだった。 3. 「たのむぞ、西垣くん!君に、この斗南病院の未来がかかっていると言ってもいい!!」 「はあ?」 院長室に入るなり、院長と副院長に囲まれて、思わず身を引いた。 「な、なんなんですか。一体…」 引いた僕にようやく気づいたのか、ゴホンと咳払いをすると院長達は落ち着きを払って、僕に側のソファに腰掛けるよう促す。 「実はだな…、この病院にある優秀な研修医が入ることになる」 まだ白髪になりきれていないひげをいじりながら、副院長が話し出す。 「そうなんですか」 『優秀』、そう聞いてあまり面白くないと思ってしまうのは、僕がまだ若いからだろう。 聞き流すように、相づちを打つと。力強く手を取られた。 「ちょっ。僕にそんな趣味はありませんよ」 「なんの話だ!まだ内々の話だが、その研修医の指導医を君に任せたいのだ」 「任せる」その言葉のときにまたぐっと院長達に詰め寄られて、内心逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。 「なんだ…そんなことですか。別にそんな大げさに話さなくても指導医くらい、いつもの事じゃないですか、お引き受けしますよ」 「そ、そうかっ!?いやあ、それなら助かる!優秀な君のもとなら、あの入江くんも不足はないだろうなあ」 「いや、まったくですな。学生時代、彼の授業に出た医師達はみな嫌がってしまって、困っていたところだったんだが、西垣先生なら大丈夫でしょう」 「そうですな、これで一安心ですな。はっはっはっ」 ものすごく、聞き捨てならないことを聞いた気がした。 「あの、院長…。そんなにすごい奴、あ、いや研修医なのですか。えーと、入江という医師は」 「一言で言えば、天才だ」 簡潔明瞭。本当に一言だ。 「おまけに父親はあのパンダイの社長でもあり、幼学舎からうちの学園とは懇意にしていただいている」 おまけに、政治的な事も絡んでいそうだ。 (簡単に引き受けすぎたかもしれないな) そもそも院長室に呼び出されて、話を持ちかけられるということ自体が、ずいぶんと不自然だったのだから、もうすこし考えて引き受ければよかった。 しかしながら、満面の笑みで安心する院長達を目の前に、今更「やめてもいいですか」などと口に出来るはずもなく。 (なんだ、一体俺が何をしたって言うんだ) どうしたところで引き受けるしか選択のないのだろう。 がっくりと、うなだれて院長室を出るのであった。 |
なかがき
さっそく話数の計算間違えた…orz
昨日ぶりです!とりあえずなんとかUPしました(できました)
本編に振っている番号通り、2話と3話分のネタでした。
文量の少なさにまとめてUPしましたが、そんなことして、明らかに全6話になるじゃん!!
……ということに今気づきました。(ホントに馬鹿)
とにもかくにも、二話目読んでくださりありがとうございました。