トリックオアトリート!







「何してんの、お前…」
「あ、入江くんお帰りなさーい!」

当直のあとの大手術を終えて、帰ってくれば。
変てこな格好をした自分の妻が迎えに来たのを、胡散臭げに入江は見下ろした。

その言葉に、待ってましたと琴子は満面の笑みを浮かべて

「トックオアトリート!」

そう言って、包帯だらけの彼女は両手を差し出した。
よく見れば彼女だけではない、入ってきた玄関にはたしかに巨大なカボチャは存在を主張していたし、あちらこちらにイルミネーションを付け、入ってくれば包帯だらけの琴子と、奥には今か今かとビデオを片手に持った魔女が迎えに来れば、当たり前に理解した。
理解して、溜息をついた。
「ばーか、それを言うなら“Trick or Treat”だろ」
「ええっ!?」
肩をすくめて驚く彼女を通り過ぎた。
そしてそのまま寝室へ向かう。
「ええっ、入江くんもう寝ちゃうの!?これからみんなでパーティだよ」
「ああ、お休み」
「そんなぁ」と悲しげな声を出している琴子に少しだけ気持は傾いたが、無情にも入江は傾いただけであった。



夜中の3時。
妙な時間に目覚めてしまった。

早くに寝てしまったせいかずいぶんと早い時間に目覚めた入江。
すると、いつもそこにあるはずの体温が感じられないことに気づいた。
「琴子?あいつ何してんだ?」
そう思い、立ち上がろうとした瞬間。


ぶに。


「……っ!」
足もとで眠っているの琴子に気づき、とっさに足をのけた。琴子の姿は昨日帰ってきたとき見た、全身包帯のミイラ男の姿のままだ。
「ったく、なんてとこで寝てるんだ」
寝苦しそうな包帯を解いてやって、抱き上げた入江に、ぴくりと琴子が反応した。
「入江く〜ん」
「ほら、寝ぼけるな、しゃんとしろよ」
しかし、確実に寝ぼけている琴子にそんな言葉がきくはずもなく。
琴子は入江に抱きつきながら、
「お菓子くれなきゃ、悪戯するからね〜」
「…こいつ、酒くせーな、どんだけ飲んだんだよ」
あきれながら、包帯を解き終えると押し込むように眠りに就かせた。
「早く寝ろ」
「やだ〜、まだ入江くんにイタズラしてないもん」
寝ぼけているのか、酔っ払っているのか、判別しにくい琴子に胡乱な視線をぶつけると溜息をついた入江。
「わかった、明日な」
すると、琴子はなんだか満足そうに笑顔になると「うん」と言って眠りについたのだった。



翌日、琴子は約束のなど微塵も記憶になく、入江にイタズラを要求されたようだが……



それはまた、別のお話。








あとがき

ハロウィンイベント用、拍手SSでした。







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