あかいいと(お題:そっと…)






ものごころついた頃からそれはあった


それは、誰にでもあったし、それがくっついてるのがあたり前なんだと思ってたら、あっさり小学校のとき、みんなにそれは見えてないんだと発覚した。
それ以来、私だけが見えるそれのことは、誰にも何にも言ってないけれど、ふといつも首をかしげてしまう。



この赤い糸なぁんだ?




1.




赤い糸、赤いいと、あかいいと…ってなんだろうなぁ。
よく在るよく聞く、あかいいと。


うん、普通はね、普通はさ、運命の人との目印だっていうんだけど。
けれど私が見える赤い糸はただのわちゃくちゃ。道端で、もつぼれあってるただ邪魔なだけの代物。
今朝も高校へ行く途中で二、三回足を引っ掛けて転んでしまうだけのはた迷惑なしろもの。


薬指を空にかざしてみる、あたしの指にもそれは確かにある。


手繰ってみようかしら?


なんども試してみようと思ってみたことはあるけれど、実際子供のときはよく自分のそれをひっぱって遊んでたけれど、以前に足で引っ掛けてちぎれてしまった赤い糸のカップルが、目の前で大喧嘩したのを見てしまって以来、ノータッチ。伝説は本当だったみたい。
いまでは、けつまずいて切れないように慎重に慎重にそうっと歩いている。
だって、私がちょっとけつまずいただけで、あっというまにその人の運命の相手って人との縁が切れちゃう。そんなのってあんまりなような気がするの。

けれど、小学校のとき初めて赤い糸の話をした友達がこう言ったことがあった。


「『しめい』だよ、きっと」


覚えたての言葉をありったけ自慢げな顔でそう言った。


「しめい?それってなに?」

「じぶんがやらなきゃいけないこと、じぶんだけのやくわりだよ」

「ふうん」


なんだかすごい気がした、すごい気がして、なんだかそのことが特別に思えて、気が大きくなって、あたしはにっこりと友達に笑った。


「うん、これってあたしの『しめい』なんだ」





2.





「そう言うつもりで言った訳じゃなかったんだけどなー」


ズコーと、勢い大きな音を立ててピクニックのコーヒーをストローで吸い込む友達。
ブレザーを肩にかけ、ネクタイはけだるそうに緩まり、高校の校舎の屋上の柵にもたれかかって項垂だれながら、隣のあたしに言う。


「俺はさ、キューピッドよろしくな感じを言っていたわけで、まさかお前に『恋人破壊神』なんて二つ名が付くような行動をとらせることを、そそのかした気はまったくなかったんだよな」

「これがまた意外と世間から需要があるのが悲しいわよねぇ」


同じく柵にもたれていたあたしは、空で両手を合わせブチンとなにかをちぎる動作をする。それを横目で見た友達が引きつりながらストローを吸い、ピクニックをべコリとへこませた。

「ほんとにそんなつもりじゃなかったんだよな」

そう言って、あたしの頭にちょこんと飲み終わったピクニックを乗っけた。


「ちょっと」


ごみを乗せられ、不満を露わに隣を根目付ける。


「俺のは?」

「今飲み終わったでしょ、あたしのまでとる気?」

「そうじゃなくて」


あたしは自分の食糧のピンチを悟り警戒するが、あっさりと首を振る。


「俺の薬指にもついてる?あかいいと」

「……まあ、うん」


まっすぐに見下ろされ、きまずそうに眼をそらして頷いた。
そして友達の口が開かれる前にあたしはきびすを返して屋上の扉をめざした。


「さあ、今日もC組の匿名希望から依頼が来てたんだったぁ」


そらぞらしい棒読みの大きな独り言を口走っていつもの1.5倍速で歩を進めた。


「この件になるとなんかおかしいよなー」


あっちの大きな独り言も丸ごと無視して歩き続けて、つまずいた。


「ほあっ」


つまずいたあたしの腕を、寸でのところで友達は捕まえた。


「糸まみれの道を一人で歩くから、そうなるんだよ。ほら手捕まって」

「うん」


よろけたあたしを立て直した友達があたしに手を差し出す。


「行くんだろ、C組。助手がお供いたします」

「よろしくお願いします」


なんだか嬉しそうな友達の顔に罪悪感を覚えながら、


子どもみたいに手を引かれて、屋上の扉をくぐるのだった。




3.



ごめんなさいごめんなさい。


初めて自分が意図してその糸を断ち切ったのは友達のそれだった。


その日は嫌な事があって、とっても嫌な事があって、
どうしても友達に聞いてもらいたかったのに、
友達は他の子と仲良くおしゃべりしていて、



自分はただ腹が立った、それだけで、


そんな理由で


友達のあかいいとを切ってしまった。



ごめんなさい、ごめんなさい。



お詫びじゃないけど、


お礼でもないけれど、


こんな嫌な奴にずっと付き合ってくれた友達に、いつか好きな人が現れたら、その薬指にフヨフヨと漂っているその糸に、相手の子の糸を固結びして、何があっても切れないように、ぎゅうぎゅうに結んであげるから。


だからずっと友達でいてください。


友達ならあかいいとが切れても、くっついていても、全然関係ないから、



だから、友達でいさせてください。





















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