平成14年8月17日

 

 

笑顔のままで

 

*この話はめっちゃダークかつ、甘甘なのでそういうのが好きじゃない方は高速でブラウザから『戻る』を押してください(^^;

 

 

 

 あぶないっ、入江くん!!

 

 

 

それが、俺の聞いた琴子の最後の言葉だった。

 

 

何が起こったのかわからない・・・

これは夢なのか。こんな夢なら早く覚めろ

 

ぬめり、と手のひらに触る生暖かい感触に吐き気がこみ上げる

なれた感触と、臭いのはずが、彼女のものというそれだけで受け入れられない

そして最も受け入れられないのは・・・・

目の前に血だらけで横たわる彼女の、琴子の姿だった―――

 

 

それは何の変哲もない一日から始まった。

琴子が、くだらないことを言って。

それを俺が言い負かす。

怒る琴子を尻目に家を出た。

大学に行く途中の道のり。雨がポツリポツリと降るのに気付き片手に持っていた本をカバンにしまい、ロータリーのある大通りの信号を待っていた俺は、前にいる子供のボールが道路に弾み子供が車道に飛び出した。

あせった俺は、カバンを放り出し子供を助けようと手を伸ばして・・・

 

それで―――?

 

…くん。…きくん

「・・・直樹くん」

我に返って気付くとそこには、相原父の顔があった。

ここは、斗南大学病院の手術室前。

どうやって俺はここまで来たのはまるで覚えてない、いや、まるで夢の出来事のようにおぼろげに覚えてはいる。

救急車が駆けつけるまでの間に俺は琴子に応急処置をし、そしてやってきた救急車でここまで来たのだ。

そして、俺が手術に加わろうとするのを西垣先生に止められた。

『俺も手術に加えてください』

『入江、おまえはだめだ。おまえはいま、まともな精神状態じゃない』

『お願いします』

『だめだ。ここでおとなしくまっていろ』

まっているのが、永遠のように感じられる。

俺はここで待つしかないのか。

「大丈夫、あいつはそんなやわじゃないよ」

相原父はそういった。

おふくろと祐樹は手術室の前にあるいすに座り青くなっていた。親父は仕事でまだこれないらしい。

俺は、琴子があの瞬間まで手にしていた傘を握り締め立ちすくむことしか出来なかった。

 

 

そして、永遠と思える時間は突然に終わりを告げた。

 

 

手術室の前のランプが消え、手術室から運ばれてくる琴子。

その後ろから西垣先生の姿が見えた。彼は笑顔で「何とか一命をとりとめた」といってくれた。

おふくろや祐樹そして相原父はおおはしゃぎをし、俺はというと・・・

盛大なため息をついたのだった。

 

夜半、おふくろたちはとりあえず家に帰宅をし、俺は、ここの医者という特権を利用して手続きなしでこの病院にとまれることになった。

 

ICUで、眠る琴子の髪に触れる。

さらさら流れる髪を落として、今度は頬に手のひらを乗せる。

とくん、とくん、と彼女の生きている音が聞こえる。

 

 

生きている―――

 

 

ポタッ・・・

突然、自分の頬に暖かいものが流れ落ちた。

自分の頬を伝い落ちる涙に、俺は驚きを隠せなかった。

いままで、自分の物心ついたときから涙が流れたことなんて一度もなかった。どんな悲しいことでも涙一つ出なかった俺が、琴子が生きている、それだけのことで泣くなんて――

 

「琴子・・・」

眠っている琴子から当然返事は返ってこない、それでも俺はもう一度繰り返す。

「琴子・・・」

彼女の頬においていた手とは違うほうの手で、今度は琴子の手を握る。

「生きていてくれて、本当によかった・・・」

 

 

そして俺は、彼女が目の覚めるときまでずっと手を握り続けた。

 

 

朝、琴子が目が覚めたらまずしかってやろう。

それから、抱きしめてキスをしよう。

 

そして琴子は俺に笑顔を向ける、俺だけに見せる笑顔で・・・

 

 

 

 

 

 

あとがき:

はい、すいませーん!!ものすごいダークかつ、あまあま(?)。

しかも入江くんの一人称なんて、ものすごいことを!!もうまったく入江くんとは別人格の人です。(^^;

挿絵も描きたかったのですが、画力のなさに断念・・・(泣)でも、いつかは描く!!かも?

というわけで、こんな駄文最後まで読んでくださった方本当にありがとうございます!!

 

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