女王と騎士


 

荒野の天文台の塔なか。

少年はひとり黙々と何かの本を読んでいた。

パラパラと紙をめくる音だけがその部屋に響いていた。

「ちょっとルーン、聞いたわよ、どういうことか説明しなさい」

そんな中、本を押しのけてフィリエルがルーンの前にやってきた。

彼女の登場にルーンは本をしまい、置いてあったメガネをかける。

昔、大きすぎて不恰好だったメガネも、今はぴったりとは行かなくも、それなりにさまにはなっていた。

「なに、フィリエル」

「なに?ですって。あなたユーシス様に騎士になるために剣をならうって言ったそうね。どういうことよ」

「ああ、それか…」

口元で「ユーシスめ」と悪態をついて、ルーンはフィリエルを見た。

「君が女王になるなら、僕は騎士になるよ。もう決めたことだからフィリエルは気にしなくていい」

そう突き放すように言ったその言葉に、ついこらえ切れなくなったフィリエルは怒鳴った。

「気にしなくていいですって!?どの口がそういうの、あたしはルーンや他の大事な人たちを護るために女王になるのを決めたの。なのにルーンがあたしを護るために、大事な研究ができなくなるんじゃ意味が無いじゃない!だから、あたしは気にするのは当たり前でしょう!」

「意味ならあるよ」

静かに、ルーンはフィリエルを見つめた。

「王女エディリーンは女王候補という地位を捨て博士を選んで、この荒野の塔にすむことを選んだ。でも君は女王になることを選んだ、だから僕は君を護る騎士になるよ」

フィリエルはおもわず歯を食いしばった、ルーンの決意は固かった。

「あたしも、あなたを選んだわ」

なんだか泣きそうになるのをこらえながら言う。

「うん、でもフィリエルは女王になるんだろう」

「死ぬかもしれないのよ」

「うん」

「あたしはそんなの嫌だわ」

「うん、僕も死ぬのは嫌だ。だから死なないよ」

「そんなの、分からないじゃないっ!」

わめくフィリエルをなだめるようにルーンは彼女にキスを贈ると。

「だから、不本意だけどユーシスに剣をならうよ、人と争わない知恵をつける。だけど、女装だけは死んだってしないけど」

そういったルーンにフィリエルはびっくりして、それから笑うと彼女のほうもルーンにキスを贈った。

「そうね、でも騎士になったらきっとレアンドラやアデイルたちとも会うだろうし、女王命令でルーネットになりなさいって言われるかも」

「知るもんか」

きっぱりと言ってのけるルーンに、フィリエルはクスクス笑う。

想像すると思わずおかしくて仕方ないからだ、剣を習うルーン?ますます面白い。

「なに笑ってるのさ、フィリエル」

「いーえ、なんでもないの、きっとルーンは怒るだろうから言わないでいるわ」

「それ、なんでもないことなのかい?」

「ええ」

そうしてひとしきり笑うとフィリエルはルーンの手をとった。

「今日はいい天気だもの、外でご飯を食べましょう。どうせ朝も本ばかりよんで食べてないんでしょう」

フィリエルは渋るルーンをどうにか引っ張りながらルーンに微笑んだ。

「そうね、あたしが女王でルーンが騎士なら、きっとどんな世界の問題も不思議も解決できるような気がするわ」

そういうフィリエルにルーンはむっつりと答えた。

「君が女王なら、どんな複雑な問題もよけいに難解になる気がするけどね」

 

 

彼女が女王になり、彼は彼女を護る騎士になる。

時が二人を分かつまで、死が二人を分かつまで、二人はいつまでもあり続ける。