Lv.1<れべる・いち>







――これは、よくあるRPGゲームの主人公である、とある勇者の話である――





1.



 ある日、旅先の宿屋で目が覚めたら自分はレベル1になっていた。


「なんだ、こりゃ――――――――――っ!」




 それは、紛れもなく、勇者の悲壮の叫びであった…


2.


「どういうことなんだ、一体」

 勇者は、もう一度さっき自分の見たものが目の錯覚ではない事を確認するために、 自分のステータスを開く。

 
すると、やはり目の錯覚ではないらしく、自分のステータスの一行目には『
Lv1』という文字が輝かんばかりに映し出されていた。


「そんな馬鹿なっ、昨日までは確かに『Lv99』だったはず…!」


 見ると、その他のステータスも、昨日までは3桁のオンパレードだった数値が、今では1桁になってしまっていた。



「うおおおぉぉっ、なんじゃこりゃー!俺の十年かけて、稼いだ経験値が『ゼロ』だとぉ!!」

 あまりの事に、叫ぶしかない勇者の声に答えてか、ドコからともなく声が聞こえる。



“なんかそこのお困りの、勇者よ”



「…その声は」


 声はすれども姿は見えず、だがその声に勇者はピクリと反応し


「そーか、どうもおかしいと思っていたら、またバグってやつか。おいこら『ナビゲータ』!!早くこいつをどうにかしやがれ!!」


 そう言って、勇者は何もない天井に声をかける。すると、何もない天井からゆらゆらとなにかが現れて、人間の形になる。

 
そして、にこやかに勇者に笑いかけ


「ちょーっと、どうにも出来なかったりして」


 そう言って、きっかり
5秒後には勇者に殴られた。



「でも、レベル1の攻撃力じゃ、ちっとも痛くないんだよねー」


「あ、くそっ。昨日まではでこぴんで岩だって砕けた攻撃力がー!」


 勇者が、ナビゲータを殴ったこぶしを見て地団駄を踏むが

「うーん、現実って、きびしー」と、それだけを返してきた。


 すると、今度はナビゲータの胸ぐらをつかみ


「『きびしー』だけで、俺の十年返せると思うなよっ。さあ返せ、とにかく返せ、俺のレベルをとっとと戻しやがれ!」


「だから、無理なんだって」


「『バグ』を直すのがテメーの仕事だと、前にいったよな」


「あー、そういえば、前に来た時には…えーと、『村人が同じ言葉しか喋ない』だったけ??」


「あの時は、しこたま困ったぞ、何せだれに話し掛けても『木村くんて、臭いよねー?』だぞ、木村の臭さなんて知るかっつーの。あのときみたいに、ちょちょいのちょいで直せよ」


「…それが、ちょっとややこしい事になっててね」


「ややこしい事?」


「どうやら、君の今のレベルと以前のレベルは、誰かと君をそっくり入れ替えられてるみたいなんだよねー」


「どういうことだ?」


「つまり、君の昨日までのレベルやステータスを持った人間がこの国のどこかにいるってこと、それを探さなきゃ、君を元に戻す事が出来ないんだよねー」


「人探しはお前の十八番だろ」


「通常ならね、だけど今回はバグがすごくて。勇者の君をやっと見つけられたくらいだから」


「つまり、他の人間を捜すなんて論外だと」


「ま、そーゆーこと」


 そう聞くと、勇者はふうとため息をついてナビゲータの胸ぐらから手を離した。

ナビゲータの説得にあきらめて手を離したのではなく、単に疲れたから離しただけである。

 
―なにせ、体力も1桁になっているから。

勇者は


「俺に、どーしろって言うんだ」そう投げやりにナビゲーターに聞いた


すると


「あきらめて、一からレベル上げをするって言うのは?」


「却下だ」


 と、ナビゲータの提案はあっさり、却下される。その勇者にナビゲータは心底不思議そうな顔をし


「だけど、レベルなんてそんなに大事なものかな」


 そう尋ねる。すると、勇者は苦い顔をし


「…別に、レベルなんて数字にこだわっちゃいね−よ。だけどな、俺はこれでも十年かけて修行をして経験値をためたんだ、それが一夜にして全部なしになるなんて、俺の生き方を全部否定されちまっている気分なんだよ」


「ふーん、でも」


「あ?」


「でも、生きた証はないかも知れないけど、それまでにたどった道まで消えるわけじゃないんだし…」


「…そーだな、まぁ、それが自分のしでかした事でおじゃんになったんなら、それでいいかもしれんけどな、てめえの穴はてめえで拭けばいいんだし、けどな、俺はまだ魔王を、ここのボスも倒してないんだ、俺が弱くなっちまったら、一体だれがこの国…」


「あっ!」


「って、おい、人が5年に一回くらいまじめに語ろうって時に、お前聞いてなかっただろっ」


「じゃなくて、見つかったよ」


「?。だれが?」


「勇者のレベルをもった人間」


 しばらくの沈黙のあと…


「なにっ、まじか!?ドコだ!?」



「あそこ」とナビゲータが指を指した先には―



 農業に盛をだす、村人Aがそこにいるのであった。


3.


「ん?」


 いきなり、村の宿屋に多分泊まっていたであろう客に指をさされ、不思議な顔をする村人
A。と――

 バキッ。


 そちらの、宿の客に気をとられた瞬間、持っていたくわの柄がいきなり折れた。


「あちゃー、これでもう100本目だよ、ったくもー」


 と、まるで日常茶飯事のように横の木屑のとこにくわを持ってゆき、新しいくわを用意して、再び畑をたがやしだす。


「って、まて!!なに自然に受け入れてるんだあんたっ!!」


 と、つい突っ込みを入れる勇者。


「わぁっ!な、なに?あんた達」


 いきなりの突っ込みに驚く、村人
A.


「なに?じゃねー!おい、村人
A!それは俺のもんだっ、さっさと返しやがれ!」


「はっ?なにいってんだよ。俺がさっき持ってきたもんじゃないか、大体なに、あんたら?はっ、まさかくわ泥棒?」


「なわけないだろっ、俺がいってんのはレベルと経験値だよっ、何できづかねーんだ、普通おかしいって思うだろっ」


「あ、これ?でももうなれちゃったし」


「慣れるなっ、俺のだそれは、おいっ、ナビゲータ!!」


 と、ボーっと、二人の掛け合いを見物していたナビゲータに勇者は声をかける。


 すると、その名前にふと、振り向いた村人
A。そして、ナビゲータの顔を見た瞬間――


「あーっ!あんた、ナビゲータじゃねーか、どうしたんだよ」


 と、まるで顔見知りのように、話し掛ける、村人
A

「は?」と、勇者はそう言うしかなかった。


 それには、気付かず村人
Aは続ける。


「なんだ、あんたがいるって事は、もしかしてこの人が勇者?」


 そうして、改めてこっちを見る、村人
A

 わけが分からず、じろりと横のナビゲータをにらむと


「さぁ、これで二人の役者がそろったわけだ。早速、バグの直しをはじめようか…」


「おい、こら、なんかごまかしてねーか、くそナビ」


 剣呑な声で、尋ねる勇者。それを更に無視して


「それじゃ、これからバグを取るけど、二人とも準備はいいかい?」


「まてって、言ってるだろ!」


「まてって、言ってるみたいなんだけど?ナビゲータ」


 二人に駄目だしされるが、それでも気にせず、ナビゲータは続ける。


「さぁ、二人とも行くよーっ!えーい、ちちんぷいぷい、ちょちょいのちょーーい!!」


 と、ナビゲータがそう、呪文のようなものを唱えると、二人はのデータは見る見るうちに修正されていった。


「だぁぁっ、てめっ、ナビゲータ!またしてもそんなふざけた呪文言ってから、すぐに、逃げる気だろっ!こらっ、まてーっ!」

そう言った勇者の言葉もむなしく、ナビゲータは「またねー」と、なんとも軽い挨拶とともに掻き消えてしまった…



4.

 おそろしいほどの静寂の後には、勇者と村人Aの二人の姿しか残されていなかった。


 唖然としながらも、勇者は、事務的に自分のステータスを開く、するとそのステータスやレベルは以前のまま、「レベル99」の表示を表していた。

それだけを確認すると、勇者は早速立ち直り

「よしっ、どうやらバグとやらも治ったよ―だし、早速、魔王退治に出発するとするかーーーっ!」

 ナビゲータのことは忘れると、きっぱり決めて。主人公は新たな旅立ちの決意とともに、その第一歩を踏みしめたそのとき


「あのーーー」


 と、すでに、ただの「レベル1」となった村人
Aが、なんともすまなさそうな顔をして、勇者に声をかけた。

 出鼻をくじかけて機嫌を損ねるが、それでも、村人Aの言葉に振り返る、すると、村人Aはなんとも、言いづらそうに「そのー、え、と」を繰り返す。

一刻も早く、魔王を倒すために出発したい勇者は 「ぐだぐだ言わずにさっさと言えっ」と怒鳴り返すと


村人
Aは、なんだかあきらめたように、一言、こう言った。



「魔王…、俺、倒しちゃいました」



その後、勇者の姿を見たものはだれもいない―――。








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―――――――――あとがき―――――――――


おもいっきり、馬鹿話ですみませんっ、一応、前回の「Lv99.」の続編ですが、分けても読めるようにはしています(多分)
人生って、時には自分のやっていた事がふっと誰かの悪意ない行為でふいになるこっとてありません??(ない?そんなばかなっ)
そんなやりきれなさをつづってみたんですが、soroの駄文ではあまり伝わらないかも…(^^;
でも、もしこんな作品を読んでくださった方、本当に、最後まで読んでいただきありがとうございましたvv

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