最高に盛り上がった理美の結婚式の帰り道―
入江くんの腕につかまりながら、すっかり日が暮れた街を二人で歩く
ちらっと見上げた顔はなんだか不機嫌そう
でもそんなの、いつものことだもん
全然気にならないよ
―だって、今のあたしは幸せいっぱいな気分だから*
理美たちの笑顔
ずっと背中を見てばっかりだった入江くんと、こうして並んで歩けるコト
そして
しっかりつないだ手―
そんな一つ一つの「幸せ」が集まって、あたしをあったかい気分にしてくれる
えへへ…いい気持ち
ほら
足取りだって、すっごく軽い
( なんだかフワフワ、身体が浮いてるみたい )
そう、思ってたら―
ぱち
目を開けると、見慣れた部屋の天井
???
一瞬ワケが分からなくて、思わずきょろきょろ
『目ェ覚めたか? この、酔っぱらい』
入江くんのその声で、視点がやっと定まる
『あ…あれ? パーティーは? 二次会は??』
『そんなもん、とっくに終わったよ…おまえ、帰る途中で寝ちまったんだからな』
『え? 途中で?』
『信号待ちしてたら急に、腕の中に倒れ込んできたんだよ…こーいう時はやたら器用だよな、おまえ』
『立ったまま寝ちゃったの? あたし??』
『キツかったぞ。あんな重い引き出物持ちつつ、おまえを背負うのは』
えっ? えええ??
あたし、入江くんにおんぶされて帰ってきたの???
『ごっ…ごめんなさい』
そう言いながら自分を見直すと、まだドレス姿のまま
入江くんはとっくに普段着に着替えて「なごみモード」なのに
( やだ…入江くんにこんなトコ、見られたくないよぉ )
ベッドの上に起き上がりながら、あたしははね上がったドレスの裾をなでつけた
寝ぞうが悪いうえに酔っぱらいなんて…入江くん、きっとあきれてるよね
でも…でもさ
もう少し、優しく介抱してくれてもいいじゃない
自分だけ着替えてスッキリするなんて、何だかズルイ
そりゃあ、入江くんは優しく介抱してくれるようなヒトじゃないってわかってるけど…
入江くんはうつむきがちなあたしを見下ろしたまま、ダンマリ
『・・・・・・』
こんな時の沈黙はすっごく苦手
いつもよりもっと、入江くんの気持ちがわからなくて…不安になっちゃう
( お願いだから、何か言って )
『・・・・・・』
( 言ってよぉ。入江くん )
―ふぅ
コトバの代わりに、あきれたようなため息
…嫌われちゃったのかな?
あたしがあんまりだらしないから
( やだ。 もぉ…泣いちゃいそう )
しゃくりあげそうなのを必死でガマンする
『…何だよ。 まーた泣いてんのか?』
からかい混じりのコトバと同時に、あたしの頬を入江くんの手のひらが包み込む
『おまえ、酒のせいでいつもより涙腺緩くなってんな』
入江くんの親指が、あたしの涙をぬぐう
『そんな泣いてばっかだと…いーかげん、目が溶けるぞ』
『だっ…だって…』
『ドレス着たままのおまえを放ったらかしにしてたのが気に入らねーのか? それとも―』
『脱がせた方がよかったか?』
イジワルな顔した入江くんが急接近してきて、あたしはドギマギ
いきなりのコトバに涙なんか、止まっちゃう
『!! なっ…なんでそういうコト言うの??』
『そう思ってたんじゃねーの?』
『そっ、そんなコト、思ってないもん!!』
『ふーん? おまえ…顔、赤くなってるけど?』
目を細めながら、入江くんが口元をゆがませて笑う
『図星だろ?』
またからかわれてるんだ、あたし…なんだかくやしいよぉ
せっかくさっきまで幸せな気分だったのに…
一日ぐらい、あたしにだって夢を見させてくれてもいいじゃない
『…すねてんじゃねーよ、ばーか』
『今日はおまえにとっていい日だったんだろ? ―ほら、笑えよ』
むに
入江くんが、むくれてるあたしの頬を軽くつねる
もぉ
夢を見させてくれるどころか、何もかもぶちこわしなんだから
あたしの中では、ここって
「ちゅ*」とかしてくれるシーンのはずなのに
『や…やめてよぉ。入江くん…』
『笑った方がちょっとは可愛く見えるぞ…だから、笑えって』
むにむに
入江くん、完全に面白がってる…
こんなからかい方、しないでよぉ
『もぉぉ、入江くんなんて、キライなんだから!!』
入江くんを押しのけて、半分本気で背を向ける
―なのに
あたしは後ろから、ぎゅっと抱きしめられた
『いっ…入江くん……?』
『…ったく、調子に乗って飲み過ぎるからだ』
入江くんの吐息が、あたしの耳にかかる
…くすぐったいよ
『―っとに、手がかかるヤツだな。おまえって』
『〜〜〜ごめんなさい。 ねぇ、入江くん…怒ってるの?』
『別に。 怒ってるワケじゃねーけど』
シュル
そんな会話の合間に結んだリボンをほどく、大きな手
長い指先が、あたしの髪をとかしてく
こんな風に触れられたりしたら…なんだか……ヘンな気分になっちゃう
『―今日の事、マジで反省してるか?』
『…ん……』
うなじへのキスは、甘いおしおき?
『…返事、しろよ』
『う、ん…反省、して…る』
ちゃんと答えたいのに
キスされるたびに途切れがちになる、あたしの声
いつも通り、完全に入江くんのペース
くやしいような嬉しいような…複雑な気分でいたら―
『なぁ…さっき道端で言ったコト、覚えてるか?』
入江くんがあたしを抱きしめたまま囁く
『…え?』
『「もう一度、結婚式したい」って』
―あ。
『で…でも、たしか入江くん、「死んでもするか」って言ってなかった?』
『まーな』
コトバを続けながら入江くんの指先が、ドレスをたくし上げてあたしの脚をなぞる
『あ…っん』
思わず顔をのけぞらせたあたしに、軽くキス
急にあま〜〜〜くなってきた雰囲気に、なんだか逃げ出したくなる
…だけど
入江くんの腕の中にしっかり捕まえられてて、絶対逃げられない
どっ、どうしよう〜〜〜
クスッ
おでことおでこをくっつけて
イタズラっぽい瞳がオロオロするあたしを覗き込んでくる
『披露宴はまっぴらゴメンだけど―』
『もう一度、2人だけであの夜から始めるのも…悪くねーかもな』
|