Before I Fall



 

カッカッカッカッ

 テンポよくパンプスの音が夕方のオフィス街に響く

 颯爽と歩く彼女の姿を周りのビジネスマンが目で追う。

  腰まで伸ばされた、綺麗なウエーブのかかった黒髪が西日に照らされて揺れる

  日本人形のように色白な肌には意志の強そうな大きな瞳がキリリと行く手を見つめている。

 

 

 

・・・・春は嫌い。

頭がぼーっとして記憶のフィードバックを幾度と無く繰り返してしまうから

 

 彼に惹かれたのはどこか自分と同じ冷たさを持っていたから

 

 このお互いの寒さをいつかは理解しあえると思ったから

 

  だけどダメだった。

彼の中にはいつの間にか彼女が潜りこんでいて、いつしか彼の凍った心を溶かしてしまった。

 

だからいつも以上に気を引き締めていかないと・・・・

 

 

 

 気が付くと満開の桜並木が見えてきた。金曜日の夕方とあって花見客や場所取りでごった返している。

 

 桜並木の入り口で立ち止まり、ため息をつく。

・・・・よくやるわ・・・・

 自分には場違いな気がする。。。

 

 

 

 

「お〜い! 松本ぉ〜!」

 ビクッと肩が一瞬だけゆれる。(汗)

 嫌な予感がする。気づかない振りをして向きを変え、引き返そうとする。が、遅かった。

 「松本〜!」須藤があわてて駆け寄ってくる。

 仕方なく覚悟を決めて振り返る。(一応先輩だし)

 

 「あら、須藤さん。お久しぶりです。会社のお花見ですか?」

 「お、おうっ!松本もか?」(場所取りだとは言わない)

 「いいえ、帰り道に通るだけです」

「そ、そうか・・・」

 

 「はい。それじゃ、失礼します」会話が繋がらないことを見据えて桜並木のほうへ進む。

 「ま、待ってくれ!俺も途中まで一緒に行くよ!」勇気を振り絞った表情。

 嫌そうな顔をして見せるが、須藤も引き下がりそうもなく、断る理由もないので歩き出す。

 断ってこない松本に驚いた表情をする。足早に進む松本に気づき、あわてて須藤も後を追う。

 

 辺りはだんだんと暗くなり始めている。さくらをライトアップするための照明も付き始める。

 

ライトアップされたさくらに否が応でも目が留まり歩調がゆっくりになってゆく。

 

最初はさくらに全く興味なさそうに歩いていた松本が、今ではさくらに吸い込まれそうな横顔を見せるので、須藤が密かに微笑む。

 

須藤の密かな微笑みに気づき松本が「なんですか!?」と少しあわてて聞く

 急に振り返った松本に驚き「な、なんでもない!」と、ごまかす様に笑ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・私にもいつか、この心を暖めてくれる人が見つかるのかしら・・・・

 

 松本がまた勢いよく振り返り、ジト〜っと須藤を凝視する。

 「な、なんだ?!」松本のアップがいきなり近づいたので赤面する。

・・・・ま、まさかね、まさか!・・・・

「なんでもないです!」っと前を向く。

・・・・ありえない。ありえない・・・

 

ドキドキするような春の空気!

 なにか出会いがありそうな予感がする!

目を閉じていてもまぶしい季節。

わずらわしいことも全て前に進めてくれそうな勢いの風!

この風に包まれていたら 何でも可能な気がしてくる!

 

ザアアアア!!!!っと強い風が吹き、松本の髪をそよがせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 

 

 

 

まろ


**感激の言葉**

まろさんのサイトでキリ番を踏んでしまった私が、キリリクで「松本姉の小説」と
めちゃくちゃアバウトなリクエストをしたのにも拘らず、こんな素敵な小説に仕上げてくださいました〜!!
もう、もうっ、感謝の言葉がつきませんっ!!!
まろさんの書く文はいつも温かくて、この小説も、春がすごく身近に感じられて
とってもほんわりさせられました(^^)

小説UPの許可を戴いて、さっそくUPさせていただきましたvv
ほんとありがとうございました!




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