続・笑顔のままでパロディ〜記憶喪失編〜
Version 10 直樹side
―11月21日― PM16:00
パタン。
と、部屋を出て。俺は階段を下りる。
そして、リビングのソファに沈み。「ふー」とため息をついた。
(なに考えてんだ、俺は…)
最後に見た、琴子の瞳がちらつく。
大きな目を、更に見開かせてこっちを見ていた。
あんなことをするつもりじゃなかった――、キスなんて。
ただ…
(俺にだって、理性の限界があるんだからな)
あんな、すがるような目で、駆け寄ってこられて、何もするなというのがおかしい。
新手の拷問か、嫌がらせか?
しかも、本人にその自覚がないのが、かなり痛い。
記憶喪失前の琴子は、あれでも、自分をとりあえず男と分かっていたので、ああまで無防備にもならなければ
それなりの雰囲気を感じたりもしたのだが…
―頭の中が高校生の琴子にそれを求めるのは無理に決まっている
分かってはいるのだが、こっちが一方的に我慢を強いられるのは、癪に障るので、ついついからかいたくなる、だけど、それがまずかった…
はっきり言って…
(かなり、やばかった…)
ズズッ…、と俺はソファに背もたれから、思わず背をずらし、先ほどの出来事を思い返して、顔に手をやる。
あの時は、琴子があんまりしつこく、こっちを避けるので、からかうつもりで、ちょっと、引き寄せるだけのつもりだった…
なのに…、触れた瞬間、彼女を離せなくなった。
そして更に、琴子が自分から、まだ逃げようとしてるのが分かって、そこから自分の理性がどっかでブチンと切れたのだ
『いいかげんにしろよ…』
あんなことを言うつもりも、なかった…、まるで嫉妬丸出しのバカな男だ。
「どうかしてる…」
「あら、お兄ちゃん、どうしたの?」
リビングにある前の机で、なにかをせっせと作っていたお袋が、こっちを向く。どうやら、口に出ていたらしい。
俺が「なんでもない」というと、お袋は「そう?」と、不思議そうにこちらを見ていたが、それ以上は何も言ってこなかった。
ただ、なにかをせっせと作るのに、夢中らしい。
(なんだ?)
俺は、さっきまで、自分の考えの中にふけっていて、気付かなかった目の前の、異常なスクリーン画面に気付いた。
ものすごい嫌な予感が、頭の中によぎり
そういえばこの一週間、琴子の記憶喪失を知ってからのお袋の姿を、ほとんど見ていなかったのに気付く。
俺は、スクリーンの前にある、映写機の隣の山積みされたビデオテープを一つ、おそるおそる、手にとった。
そして、ケースの裏にあるタイトルを見ると
『琴子ちゃんとお兄ちゃんの愛のメモリー〜高校卒業式編〜』
バンッ!!
思わず、ビデオを床に叩きつける。
「まぁっ!お兄ちゃん!!なんてことするのっ」
お袋は、スクリーンの設置作業を止め、こちらに来る。
「何てこと…じゃないっ、何だこれは!?」
「やーねぇ、これは、今日琴子ちゃんに見せるための、ビデオよ。ママが、一週間ほとんど寝ずにがんばって編集した、超大作なのよー、これで、琴子ちゃんもばっちり、思い出すわよ」
(…寝てくれ、たのむから)
いないと思ったら、こんなもんを作っていたのか…。
「…ま、まさか。今日は見せるってことは、パーティで流す気じゃないだろ―な?」
世にも恐ろしい、予想を、俺はおふくろに尋ねると
「あら、お兄ちゃんたら、やーねぇ」
そう言って、お袋はコロコロ笑うと
「そんなに、自分の分も欲しいなら、そう言ってくれればいいのに」
「言ってないっっ!」
きっぱりと、それだけは否定して、俺はさっき床にたたきつけたビデオを拾い、箱に入っている同じようなビデオの上に積む。
そして、机の横に転がっていたガムテープで、がっちりとその箱を封印する。
「あーーーっ、お兄ちゃん!なんてことするのよっっ!?」
「だれが流すか、こんなもんっ!お袋、いいから、準備が終わってるなら琴子でも呼んできてくれ」
「えー、それなら、お兄ちゃんが呼んできてあげなさいよ」
そう、言ったお袋の言葉に、一瞬、ドキリとする。つい先ほどの醜態のあとで、琴子にどんな顔をしていいのか分からない。
「…俺は、とりあえず、これを片付けておく」
それだけ言うと、俺はスクリーンに視線を送る。
「やめてちょうだいーっ」という、お袋の声は無視して、お袋を二階へ押しやると、俺はとっととスクリーンを片付ける。
そして、片付けるときに、視界に入った、お袋の手作りであろう、看板に目をやる。
『琴子ちゃんの退院&5年目の結婚記念 お祝いパーティ』
…まさか、5年目の結婚記念日、木婚式をこんな形で迎えるとは―――
これから予想される苦難に、少しめげそうになる俺だった…
あとがき
今回、速いペースで、続きが書くことが出来ました(^^)
そして、今回の入江くん。かなりむっつりぶりを発揮しましたねー
ええ、もういいです。soroの入江くんはむっつりで…、開き直りました。
きっと、一生治らない病気みたいです(^^;
そして、やっぱりシリアスになりきれないsoro…(涙)
とくに、後半は、違う意味で壊れてました、入江くん(笑)
―次も、こんくらい早くUPできるよう、努力したいです…。