Office Love
第七話〜終わらない物語〜

 

 

おとぎ話の結末よりも、先の見えない今を話そう。

 

 

14.

 

 

「はぁ〜」

 

ため息をつきながら、デスクのパソコンとにらめっこをしている大野。

 

「俺って、なんでこんな馬鹿なんだろう…」

 

そう呟きながら、彼はまたしても先ほどの秘書との会話を思い出していた。

 

 

15.

 

 

「『相原さん』?って、確かこの間あなたと一緒に来た元気な女の子よね、その子と入江社長補佐をくっつけるですって?」

秘書はぼんやりと先ほど会った女子社員の事を思い出しながら大野に尋ねた。

「そうそう!」

 

興奮気味に答える大野とは逆にあきれながら彼の話を聞いている秘書。

いらないダンボールや机、椅子などのつまれた会議室は大野と秘書の二人だけがいるように思えた。

 

「あなた…もしかして、知らないの?」

 

少しばかり同情したような視線を向け、秘書は言葉をつづけた

 

「入江社長補佐って、結婚してらっしゃるわよ」

 

「へ?」

 

おもわず、何を言われたのか分からなかった大野。しかし、次第に秘書の言葉を飲み込んでいくと…

 

「えーーーーっ!!なんでーーっ!」

 

「何でって言われても…」

 

「じゃあ、じゃあ、相原さんはこのこと…っ」

 

「知ってるでしょうね、社内の女子社員で知らない人はいないみたいだし」

 

「そ、そんな…おれ、いくら知らないからって、彼女に酷いこと言ってたんだ…」

 

がっくりとうなだれる大野。いつも元気な大野がしょんぼりと肩を落としてる様をみて、思わず眉をひそめる秘書は

 

「いいんじゃないの?どうせあんなドジな子が入江社長秘書と上手くいくわけないんだし、あなたが気にすることなんて…」

 

がたんっ

 

秘書がそう言い放つと、ふと後ろから物音がした気がして彼女が振り向く。

「どうかした?」

「なんか今音しなかった?」

「そうかな」

話がそれてしまったことで、自分が大野のことを励まそうとしていることに気づいた秘書は、気まずそうに咳き込むと大野にむかって

「とにかく、この話はこれきりにしましょ」

そう言った。

 

そんな彼女に気づかない大野は、なおもしょんぼりと肩を落としてためらうように

「うん、でもなんとか気持ちだけでも伝えさせてあげられないかな…」

切実そうな顔で秘書に頼む。

そんな大野になぜだかムッとする秘書は

「そんなに、あの子のことが気になるならあなたが付き合ってあげたらいいんじゃないの?」

「へ?」

あまりに唐突にそういわれたので、大野は目を丸くする。

「あなたと、彼女なら似た同士、きっとお似合いよね、そうすれば、私もあなたに付きまとわれなくてせいせいするし…」

 

がたたっ!

 

「?」

またしても、奥のほうで物音が聞こえてきて振り返る秘書。やはりそこには何もなかったが、念のために大野にも尋ねてみる。

「ねぇ、いまやっぱり音がしなかった?」

大野の方を見て尋ねる秘書だが、大野の反応はなかった。

「ねぇちょっと、人の話聞いてる?」

再び大野に聞きなおす秘書に、大野はムッツリと睨むと

 

「なんだよそれ」

 

一言を独白のように吐いた。

 

「おれがずっと、鏡子さんが好きなの知ってるうえで言ってるの?」

 

「あ…」

 

気づいたときにはすでに遅く、そしてとりつく言葉を彼女は持っているわけが無く。

 

「俺は相原さんがたとえ片思いだったとしても、相手が結婚してても、自分が好きなだけならそれでいいと思うし、応援だってしたいよ。でもそれは彼女が好きとかじゃなくって、自分と同じだったからだよ」

 

そう一息で言った後、大野は首を彼女に、背を向けて扉のほうに向かうと

 

「でも、鏡子さんにとって、そんなに俺が迷惑だっていうなら、もう俺は二度と関わらないから…」

 

そう言って、彼女の言葉を待つより先に、大野は駆け出していったのであった。

 

 

16.

 

 

そして、現在大後悔中である。

 

 

「自分から『もう二度と関わらない』なんて言うなんて…、なんであんな事言っちゃったんだろ。それに相原さんにもどんな顔して…」

 

「大野くん?」

 

「うわぁっ!」

 

ひょっこり後ろから現れた琴子に思わず悲鳴に近い声を上げる大野。

 

「な、なに?そんなにビックリしなくても」

「あ、いや、ごめん」

しどろもどろになりながら琴子のに謝るが、どうしても彼女の方を直視できずにいた。

 

「その…相原さん。俺、なんにも知らなくて、その、ほんとにゴメンっ!」

 

「ええっ、な、なに?」

 

「社長補佐が結婚してたなんて…、なのに無責任に頑張ろう何ていったりして…」

 

「あ、ああ…それ。あはは、全然気にしてないから」

 

そう言って引きつった笑いを見せる琴子、そんな琴子に思わず涙ぐむ大野。

 

「そんな、無理しなくっても」

 

「してないわよ、だってあたしも結婚してるもの」

 

「ええっ!?け、結婚っ!!」

 

叫びだす大野に、思わず周りを見ながら彼の口を両手でふざぐ。

もごもご言う大野の口を離すと、大野は唖然とした顔で

「じゃ、じゃあ、相原さんまさか不倫…」

「えっと、そうじゃなくって…」

どうにも言いずらそうにしている琴子に、大野は意味が分からない顔をしていると

彼女は気まずそうに、こちらを見て

 

「今夜空いてる?」

 

そう尋ねるのであった。

 

 

17.

 

 

カタカタカタ…

 

猛烈なスピードで、キーボードを打っていく音が聞こえる。

入江パパは、それを眺めながら、横の入江に声をかけた。

 

「なぁ、直樹。秘書の彼女、わしがいない間に一体どうしたんだい?」

「まぁ…」

 

あいまいな返事で、適当に返すと、入江は半眼で彼女を見た。

恐いくらいの無表情で仕事をこなす彼女は、やはりどこか自分の姿の一部を見ている気分にさせられる。

 

「中岡さん」

秘書の名前を呼ぶ入江に、ようやく振り向いて仕事から目を話す秘書。

「なんでしょうか」

こつこつとハイヒールを鳴らしてやってくる彼女に、

「そう言えば、中岡さんは俺の妻を一度見たいと言っていっていたよね」

 

「な、直樹?」

突然琴子の事を口に出す入江に戸惑う入江パパ。

秘書もまさかさっきの話を振られるとは思わずビックリしたが、そこはいつもの仕事用の笑みにすぐさま戻り

 

「あ、はい。入江社長補佐の奥様ならさぞかしお綺麗で完璧な方でいらっしゃいますから、是非お会いしてお話してみたいと…」

 

ぶーーーっ!

 

よこで、なぜか盛大に吹き出す入江パパに、首をかしげる秘書。

「あの、何か…?」

「い、いや、なんでもないよ」

必死で取り繕う入江パパ。そんな入江パパを何もなかったかのように、入江は秘書に微笑むと

 

「それなら、今夜あいてる?」

 

琴子と同じく、秘書に尋ねたのであった。

 

 

18.

 

 

「で、なんであなたがいるわけ?」

「き、鏡子さん??なんで…」

 

日も暮れて星が煌く夜の街。

その中で、こうこうと明かりのついたオフィスにいるのは4つの影。

 

ここは最上階にある、応接室。

なぜか、こんなとこにお互い呼び寄せられた二人は必死になっておたがいの現状を確かめ合った。

 

「俺、たしか相原さんに旦那さんを紹介してもらうつもりだったんだけど、なんで鏡子さんがここに?」

 

「私だって、社長補佐の奥様とてっきりお会いするのだと思ってたのに、なんであなたがいるの?」

 

二人して、いまだに呆然としているのを横目に言葉を出したのは琴子だった。

当初彼女が入江に頼んだのは、秘書をここに来させるためであり、なので入江が一緒だとは思いもよらなかった。

「入江くんが、なんでいるの!?」

「お前に任せるとややこしいからな、一度に説明したほうがめんどくさくねーし」

 

青くなっている琴子を尻目に、今度はこちらのほうを見ている秘書と大野んのほうを向き

 

「紹介するよ、彼女が俺の妻の『入江琴子』」

 

簡単明快にそう言った。

その言葉にとなりで、青くなりながらも「い、入江琴子です」と消え入りそうな声で言う琴子に大野と秘書は

 

「えーーーーーーっ!!!」

 

一斉に声を発した。

 

 

19.

 

 

「あ、相原さんが入江さんの奥さん!?」

 

「ご、ごめんなさいっ!ずっと言いそびれちゃって」

 

「そ、そんな…」

 

衝撃の事実に顔を赤くしたり青くなったりする3人。

ひとり平然としているのは入江である。

 

秘書は、入江の方を説明を求めるように見ると入江が「言ったとおりだよ」と見も蓋も無い事を言ってきた。

それとは別にパニックを起こしているのが約一名。

「相原さんは、相原さんじゃなかったの!?」

なんだか分かるような、あまり意味の分からないことを叫ぶ大野。

「相原は旧姓なの」

申し訳なさそうに答える琴子。

「そ、それじゃあ俺ってまったく無駄なことばっかりしてたわけ…」

情けない声をだす大野に琴子は慌てて首をふると

「そ、そんな事無いわよっ、わたしも大野くんみてるとほんとにいろいろ励まされたんだからっ!」

必死でそう言う琴子に、うろんげな目を向ける大野。すっかり、すさんでしまったみたいだ。

「ほんとに?」

「うん、そうそうっ!」

そして、「だから…」と後を続ける琴子。

 

「これは大野くんへあたしからのプレゼント」

 

ぱっ。

 

部屋の電気をいきなり消されると、なにかが急に命を吹き込まれたかのように輝き出す。

 

 

それは一面の星の海。

 

いや、そう思っただけで実際は全面の窓から見えるのは街頭のイルミネーションと星のコラボレーションである。

 

「すごい」

 

どちらかが呟く。

 

毎日働くこの場所の、こんな景色はいつも見慣れていたはずだった。

なのに、この星の群れにはただただ圧倒されて見とれていた。

 

しばしの間、何も言わず、ただその景色を眺める大野と秘書。

いつのまにか、琴子と入江の姿はなく、二人だけとなっていた。

 

「あのさ…」

上下に煌く星空を眺めながら、沈黙を先に破ったのは大野のほうだった。

 

「このあいだは、ごめん」

 

そう一言謝る。

 

そんな大野の言葉に秘書は見えないように微笑むと

 

「そうね、わたしも悪かったわ」

 

それだけ呟いた。

 

 

20.

 

 

「どうなるのかな、あの二人」

「さあな、あとは当人同士問題だからな、これ以上お前がややこしくすることも無いだろ」

「むっ!なによそれっ。あたしがいつややこしたって言うのよっ!」

「心当たりがないとでも?」

「う、それは…」

 

思わず黙り込む琴子。

そして、入江の後を追うようについていく

夜の廊下には二人の足音だけが響いていた。

「ねぇ、入江くんどこにいくの?」

「ついてくれば分かるよ」

そう言って、入江と琴子は、最上階の応接室から更に階段を上がっていった。

 

そうしてたどり着いたのは一つの扉。

入江はポケットから、一つのカギを取り出すとそこにカチャリ、と回しカギが開いた事を確かめるとドアノブを回した。

 

「わっ!」

 

屋上から吹き上げた風で、思わず目をとじた琴子。

そしてその次に現れたのは先ほど応接室でも見たあの景色だった。

 

「うわぁ」

 

吸い込まれそうな星空に首がつりそうなほど見上げる琴子。

「すごいっ、すごく綺麗だよ、入江くんっ」

はしゃぐ琴子に入江がそっとキスをする。

「いっ、入江くん!?」

「なに?」

不意打ちのキスに驚いた琴子顔を真っ赤にさせるが、入江はなんでもない様子で次には琴子の肩に両腕を回した。

すっぽりと自分の胸に落ちた琴子の耳をくすぐるように、入江はが囁くと、琴子は満面の笑みで答えた。

 

 

「今夜あいてる?」

 

 

「もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―あとがき―

おわった………。
66日から一週間のカウントダウンといいつつ、今あとがきをかいてるのは628日…
ほんとに、すみませんーー!(逃っ)
言い訳なんて出来るわけも無く無茶苦茶遅れてしまいほんとに情けないです。
とにかく、かき終わってほんとによかった(^^;
こんなでたらめな文を読んでくださった方、ほんとにありがとうございます!
そして、これからもよろしくおねがいしますねvv

 

 

 



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04/06/28