<カウントダウン第六弾>

 

 

犬も食わない

 

 

1.

 

 

「真里菜っおねがいっっ!」

 

講義の始まる少し前。

琴子はあたしを見つけると、猛烈な勢いで、あたしのところまで乗り込み

 

「あたしに、『色気』を教えて!!」

 

コロン…

 

思わず、あたしは持っていたシャープペンを落っことした…。

 

 

2.

 

 

「それが、聞いてよ真里菜っ!」

「しぃっ!静かにしなさいよ。今、講義中よ」

今にも叫びだしそうな、琴子をとりあえずたしなめる。

はっ、とようやく、我に返った琴子は、少し落ち着きを取り戻す。

 

「…で?」

 

また、どうせ入江さん絡みなんでしょ。と思いながらあたしは琴子の話を促す。

琴子は、まだ、興奮が冷めないのか、顔を赤くしてこっちの方を見て

 

「それがひどいのよ、入江くん」

 

…やっぱり。

 

ほんと、予想を裏切らないわね。

 

と、あきれて琴子を見るが、それには気付かず琴子は話をつづけ。

 

「朝起きたら突然よ。入江くん、いきなり『おまえって、つくづく色気ねーな』っていったのよ、ひどいと思うでしょ!!」

 

「だから、静かにしなさいってっ」

 

「……とにかく、入江くんにあたしが、どんなに大人で、いい女かを分からせてやりたいのよ」

 

「ふぅん。で、それとあたしがどんな関係があるのよ」

 

「真里菜なら、色気の出しかた分かると思って」

 

どういう意味よ、それはっ

 

と、思うが、とりあえず口には出さず。代わりに

「いいわよー。なんなら、実践で教えたげよっか、入江さんで」

冗談交じりに(半分本気で)あたしが、琴子にからかうように言うと

 

「絶対だめーー!!」

 

絶叫する琴子。そして…

 

コホンッ

 

誰かの咳き込む声がして、あたしと琴子が振り返ると。

 

「きみたち。出て行きなさい…」

 

青筋を立てた、教授に追い出されたのであった。

 

 

3.

 

「まったく、琴子のせいよ」

「ごめんなさい…」

 

講義を追い出されたあたし達は、まだ閑散としている学食で、暇をつぶしていた。

そこで、さっきの話の続きをする事になったのだけれど…

 

―ところで、この子って、あたしが入江さん狙ってるの、ほんとに分かってるの?

 

こうして、今も入江さんのことであたしに相談しに来てる琴子に、あたしは少しだけ疑問に思う。

 

入江直樹――

頭脳はIQ200の大天才。

医学部でも常にトップの成績。

父親は大手メーカーの社長。

家は、世田谷の高級住宅街。

さらに、顔はみての通りのあのカッコよさ。

ここまでくれば、もやしのお坊ちゃん…、と思われそうだけど、スポーツでも、全国大会で優勝するほどのテニスの腕前。

 

はっきり言って、欠点なしの、あたしの理想の結婚相手像ぴったりの人間。

 

実は、琴子には言ってないけど、これまで何度か、琴子に内緒で入江さんにモーションをかけたことがあるのよね。

 

まぁ…結局全敗だったけど

 

入江さんは、あの通り琴子にいつも冷たい感じだから、ついついあたしも、チャンスがあるかもと思ったのよね。

 

 

まだ、ぶつぶつと入江さんに対して文句を言う琴子あたしは隅から、隅までじっと見る。

 

「な、なに、真里菜」

あんまり、じろじろ見るあたしに気付いて、たじろぐ琴子。

そんな琴子に、あたしはスパッと

 

「たしかに、色気はないわよねー」

 

ついでに、胸も。

 

とさらに追記するあたし。

 

「ひ、ひどい…」と、涙目で言う琴子、でもまぁ、事実だし。

 

ほんと、この子のどこがいいのかしら、入江さん。

と、思いながら、チロリ…と琴子のうなじのあたりを見る。

 

「あんたさー」

「え、なに?」

 

色気のアドバイスと思ってからか、身を乗り出して尋ねる琴子。

「何で、いまさら入江さんがそんな事いったの?」

あたしは、“いまさら”を強調して、琴子に尋ねると、琴子はちょっとムッとしたように

「わかんないわよっ、だから怒ってるんじゃない」

そう言って、そっぽを向く琴子。

そんな琴子に、あたしはごく普通の口調で

 

「ていうか、あんた達、昨日…した?」

 

「へ?」

 

琴子は「した」…という言葉がしばらく理解できなかったのか。きっかり3秒立ってから

 

「し、し、してないわよっっ」

 

青筋をたてて、怒鳴り返してきた。

あたしは、それをさらっと流すと。自分の首筋に指を指し

「付いてるわよ、痕」

そう言うと

バシッ。と琴子は、指された場所を手で抑える

「な…っ、う、うそっ!…だって、昨日は…っ」

 

そうあたしに言い返そうとして、固まる琴子

 

そして、ぼーぜんと

 

「お、覚えてない…?あれ?そういえば、あたし昨日どうやってうちに帰ったんだっけ??」

 

その言葉に…

 

あたしは、あきれて、ため息をつくのだった。

 

 

4.

 

 

昨日、中学校の時の友達と飲み会のあった琴子は、久しぶりに会った友達と、かなりいき投合して飲みまくったらしい。

 

「と、いうことは、あんたがその後、酔って帰ってきて、入江さんに散々色気のないようなことを、したってわけね」

「そ、そこまでいわなくても…」

「事実なんでしょ」

「でも、はっきり言って、何にも覚えてないし…」

「まぁ、でもはっきりしたじゃない、入江さんがあんたの色気のなさに、つくづくあきれて、言ったってことが」

一体、琴子はなにをしたんだろう。と、興味は湧くけど

「ど、どうしよう…、真里菜。入江くんに呆れられちゃってるのかも」

先ほどの、怒声はなんだったのかと思うほど、おたおたする琴子。

「ま、あきらめたら」

人事のように言うあたし。

「あんたが、努力して色気出るとは到底思えないしねー」

「そこを何とかっ」

あきらめなさい。というあたしをさえぎって、琴子はあたしの手を握り締めてにじり寄る。

 

なんとかって…、

 

恐ろしい気迫とともに、迫る琴子にたじろぐあたし。

 

「そ、そーね…、まず…」

 

「まずっ!?」

 

あたしは、視線を宙に投げ、考えると

 

「あっ、あそこに空飛ぶ黒猫宅急便がっ!!」

「えぇっ!?」

 

琴子の背後にある窓を指差すあたしに、思いっきり振り返る、琴子を見て

 

あたしは、とっとと学食から逃げ出すのであった。

 

 

後ろから「真里菜〜っ!」と聞こえる声は、キッパリと無視して…

 

 

5.

 

 

翌日。

 

昨日、何とか琴子を振り切ったあたしは、朝、ぼんやりと、大学の教室の窓を眺めていると。

 

仲良く二人で登校する、琴子と入江さんを見つけた。

 

昨日の騒動はなんだったのかと思えるほど、幸せそうに琴子は入江さんに笑いかけていた。

 

 

“夫婦喧嘩は犬も食わない”

 

―まったくよね。

 

と、あたしはバカバカしい気持ちで、窓の下を歩く二人に手を振るのだった。

 

 

 

 

あとがき

 

またしても、脇役キャラを書いてしまい…

この企画の7つのうち3つも脇キャラ視点話(^^;

でも、イタキスはどのキャラも好きなので、書くと楽しいですvv(アルバートのぞく)

でも、このお話は、実はぜんぜん納得いかず。最後まで六弾にするかどうか悩みましたが、時間のなさに断念。(くそぉ)

もっと、琴子と入江のバカップルぶりと、入江の苦悩を書きたかったはずが…っ!?

本当は、入江くんサイドの話だったから、余計へんになってるのかな(笑)

 

次は、ようやくラストとなります。

それでは第七弾で^^

 

 

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6/11/2003