<カウントダウン第四弾>

 

都合のいい嘘

 

※この話は14巻のラストのあたりのお話です

 

 

 

1.

 

 

今日は、琴子の看護科初日の日である。

 

俺は、今日看護学校での事を聞いてやろうと、机の前にコーヒーを持ってきた琴子に尋ねると…

 

「はぁ…」

 

と琴子は俺を見て、重いため息を1つつくと。

 

「…いや、あらためて思うけど。あたしって、スゴイ人と結婚しちゃったんだなぁーて…」

 

(はぁ?何言ってんだこいつ)

 

俺は、ただ初日の看護学科の感想を聞いただけなのに、なんでそこで結婚してる事が関係あるんだ?

そんな俺の考えなど分かるはずもなく、琴子は続けると

 

「…あたし、当分医学部行かないから」

 

「?」

 

いつもは、言われなくても医学部にやってくるこいつが、来ないって、どういうことだ?

 

そう言ったあと、しょんぼりしたように、俺の隣に座る琴子。

 

 

そんな琴子の様子に、ますます、わけが分からなくなる俺であった。

 

 

 

2.

 

 

「あれ、入江さん。今日も琴子さん来ないですねぇ」

 

「…授業が、忙しいんだろ」

 

あれから数日。

 

結局、琴子は言葉の通り、医学部に来る事はなかった。

 

ったく、看護科に決まったときは「これから、毎日入江くんの所に遊びにいけるね」なんて、言ってたくせに。

 

…別に、来て欲しいとも思っていなかったのだが、来ないとなると、それはそれでむかつく。

 

と、考えていると。

 

「あれぇ、でもおかしいなぁ」

ふと、横で船津が首をかしげて

「一昨日、琴子さん。医学部の教室の入口まできてたんですけど」

「琴子が?」

俺は、その日、琴子には会っていない。

「はぁ、そうなんですよね。なんだかよくわかんないんですけど、ぼくのこと『船津さん』て言うなり、逃げるように帰っていっちゃったんですよ」

 

「はぁっ?なんで逃げるんだよ」

俺はさっぱり、意味のわからない琴子の行動に、あきれる。

船津も、さっぱり分からないらしく。

 

「さぁ、なんでなんでしょう」

 

そう言って、首を傾げるだけであった。

 

そして

 

しばらくして、その謎はいとも簡単にとかれることになった。

 

 

3.

 

 

「…ちょっと、休憩してくる」

 

実習の実験が、一通り区切りがついたところで、チームの連中に、俺はそう一言言って、外の空気を吸いに出た。

 

と。

 

『ふざけるなっっ!!これが患者だったらどーするんだっ!!!』

 

『だから今勉強してるんじゃないっ!!』

 

ぴたッ。

 

と、俺の足を止める声が聞こえてきた。

 

『いい加減なんかじゃないわよっ』

 

再びの怒声。…やっぱり、琴子の声か。

 

また、授業でドジでもしてるのだろうと、俺は、あきれながらも、足を看護科の方に向けた。

 

琴子に怒鳴り散らす奴に、少し同情をしつつ、俺が、看護科の教室の扉の前まで来ると

 

『あたしは…、あたしは…っ』

 

琴子が、なにかを言い出そうとしているのに気付いて、ふと扉にかけていた手をを止める。

 

 

と――

 

 

『あたしは、あの入江くんの奥さんなんだからっ!!』

 

 

・・・・・・・・・・。

 

 

扉を開けようと思った手に力と、目が半分くらい据わるのが分かる。

 

そして、琴子がここ数日、俺の学部に来ない理由もおおよそ分かった。

 

 

つまり

 

(俺と、結婚してた事を、隠してたってことか)

 

あきれ半分、苛立ち半分で、俺はその言葉を理解する。

 

あきれた理由は、今、琴子が暴露してしまったように、あいつに隠せるわけがないのだし。

そして、苛立ちの理由は、なんでわざわざ隠すのか、ということだった。

 

俺は、まだ開けずにいる扉の前で立っていると

 

 

『『あははははっっ』』

 

 

突然、中にいる奴らの、笑い声が聞こえてきた

 

『じょ、冗談にもほどがあるのよ、琴子』

『苗字が一緒なだけじゃあね、説得力ないわね』

 

どうやら、信じてもらえていない様子で…、俺にはなぜか、教室の中の様子が手にとるように分かった。

 

―ったく。

 

ずっと、言わなかった罰だろ。そう思いながら、1つため息をつくと。

 

『あ、あたし、本当に…っ』

 

 

ガラッ。

 

 

琴子の言葉をさえぎるように、俺は扉を勢いよく開けた。

 

 

4.

 

 

…静かな、教室。

 

先ほど、爆笑の渦だった教室だったのか、と思うほどの沈黙がその教室に訪れた。

 

俺は、今にきて、やっと今が授業中だったことに気付く。

 

だが、それも一瞬の事で。その次の瞬間には

 

「「「い、入江さんっっ!!!?」」」

 

 

きゃぁぁっ、と言う悲鳴とともに、いっせいに声を出した看護科の連中に、俺は思わずあとずさる。

 

と、そんな中。一人、青い顔をしてこっちを見ている、女を見つけると

 

「琴子――」

 

その一言で、再び訪れる、沈黙。

 

「おふくろが、お前とデパートで買い物したいから、帰り駅から電話くれって」

 

俺は、それだけ言うと。

 

 

「そう言うわけだから、じゃあな」

 

 

ピシャン、と扉を閉めたのだった―――

 

 

5.

 

 

「入江くーんっ」

 

帰り支度をする俺のところに来る琴子。

 

そんな琴子に

 

「なんだよ、しばらくは医学部来ないんじゃなかったの」

 

そう言うと。琴子は、冷や汗をかきながら

 

「あ、あはは…。そーだったっけ?」

 

すっとぼけて、調子のいいことを言う。

 

そんな琴子に、俺はあきれてると。琴子が

 

「そーだ、さっき、お義母さんに電話したら、そんなの知らないって言われたんだけど」

「そう。じゃ、そーなんだろ」

 

今度は俺がしらを切った。

 

そんな俺に琴子は、心底不思議そうな顔をしている。

俺は、その様子に苦笑し、琴子の頭を軽く小突くと

 

 

「おいっ、帰るんだろ。はやく用意しろよ」

 

 

そう言って、約5日ぶりに琴子と一緒に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

あとがき:

 

書くにしたがって、入江くんが入江くんじゃなくなっていく気が(涙)

いくら、追い詰められてるからって、入江くんの一人称に手を出してしましました。

入江くんの、14巻のあの登場のタイミングはまるで見計らったかのような登場シーンだよなぁ。

という、またしても、soroの独断と偏見により、勝手に作ってしまった、このお話。

す、すみませーん。苦情はお許しをっ(><)

 

 

 

 

 

 

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6/10/2003