<カウントダウン第三弾>

 

いつか…

 

 

1.

 

コンコン…。

琴子は、病室のドアをノックして

「おはよー、正一くん。朝ごはんだよーーっ」

と、満面の笑みでその部屋に入ると…

 

モミッ。

 

「っきゃあああっっっ!!!!」

突然、背後から胸をもまれ、思いっきり叫ぶ琴子。

ぐわしゃーっっっん、とついでに持っていた、朝食も落とす。

 

あーあ、と背後から琴子の胸をさわった人間はため息をつくと

「相変わらず、どじだなぁ琴子は」

こともなげにそう言った。

しばし、落とした朝食に呆然としていた琴子は、それを聞いた瞬間。

「し、し、正一くんっ。いきなりなにすんのよっ」

そう言って、琴子は背後に目を落とした。

すると、そこには、ちょこんと小さな男の子がそこにいた。

男の子は、怒り狂って、顔を真っ赤にしてる琴子を前に、ケロリと

「おまけに、胸は相変わらず小せぇし」

ペロリ、と舌を出してそう言った。

言われた琴子は、顔を更に真っ赤にし

「し、失礼ねっ!!これでもBカップくらいは…」(ちょっとウソ)

 

パカンッ

 

琴子が正一に怒鳴り返そうとしたとき、更に後ろから来ていた、入江のカルテに琴子は頭をはたかれた。

「おまえな…、子供あいてになにマジに答えてんだよ、さっきから病棟中に丸聞こえだぞ」

そう言って、呆れ返る入江。と…

「あーっ!入江っ!!てめっ、俺の琴子から離れろよっ」

そう言って、正一は琴子と入江の間に割り込む。

すると、入江はあっさりと「はいはい…」と言うと

「そんな事より、正一くん、朝の診察はじめるからベッドに戻りなさい」

と、入江は正一を促がして、自分も病室に入る。

 

すると、入口にポツンと残された琴子は…

「“そんな事”って…」

と、ちょっと寂しそうにつぶやいた。

 

2.

 

加藤正一、小学校3年生。

一ヶ月前に入院に来た患者である。

じつは、この少年は、入江にとって小児外科で初めての担当の患者であった。

それを知った琴子が、婦長に頼み込んで、自分も担当にしてもらったのだが

…なぜか、やたらとこの少年に好かれていた。

 

「はい、異常はないみたいだね」

そう言って、入江は聴診器を外す。

そうして、正一も服を着ると

「琴子、今度俺が退院したらデートしようぜっ」

「えっ」

唐突な正一の申し込みに驚く琴子。

「俺、一番お気に入りの場所があるんだ、琴子だけに見せてやるから、いいだろ?」

あー、うー、とよく分からないうめき声を出して、琴子はチラリと横の入江を見た。

入江は、まるで聞こえてもいないように、平然とカルテに書き込みをしていた。

(まぁ、入江くんが、子供相手にやきもちなんて焼くわけないか…)

と、おもって琴子は、ふう、と心の中であきらめのため息をつき

「いいわよ〜、楽しみにしてるからねっ」

と、笑っていうと。正一は心から嬉しそうに

 

「おうっ、俺、琴子のこと絶対、惚れ直させてやるよ」

 

子供ならではの笑い顔をみせた。

 

「それなら、まずはちゃんとベッドにねて、早く治すことだな」

そう言って、先ほどから、会話に参加しなかった入江が、正一のベッドに押し付けて寝かすと、ぽんぽんと頭をなでた。

 

ぽんぽん…、そうなでる入江を、正一はボーっと黙って眺めてると

 

「…い、入江も来たかったら来てもいーぞ」

 

少し、顔を赤くして、言う正一。

 

「俺はやさしーからな。も、もし、来たいっていうなら連れてってやらなくもないからな」

 

えらそうにいうわりに、手は入江の白衣を掴んでいる。

そんな正一をみて、入江は苦笑し

「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

そう言うと、正一は照れ隠しのように

「だ、だけどっ、あくまで俺と琴子の『デート』だからなっ、お前は単なる、付き添いなんだからなっ」

顔は正直で、明らかに嬉しそうに言う正一に

「はいはい…、だったら、とっとと治してもらわねーとな、でないと、俺と琴子だけで『デート』に行くからな」

「絶対だめっ!!」

その反応に、クスクスと笑う、入江。

 

「じゃあ、楽しみに待ってるよ」

 

そう言って、今度は正一の頬をなでて、部屋を出て行った。

琴子も

「早く元気になってね、正一くん」

と言って、入江のあとについていった。

 

 

3.

 

パタン。

と、病室を出る二人。

 

「ふふっ」

「?、なんだよ」

一人笑いをする琴子に不信の目を向ける直樹。

 

「なんだか、入江くんお父さんみたいだった」

 

「そう言う、おまえは母親みたいだったぞ」

 

お互いにそう言うと、二人は顔をそろえて「ぷっ」と笑う

 

「あたしと入江くんの子供ってどんなかなぁ、ね、ちょっとは、入江くんも子供欲しくなったでしょ?」

そういって、琴子は不敵に笑うと、入江も

「まーな」

琴子の頭をなでる入江。

 

琴子はそんな入江を見て、くすぐったそうに、入江の耳元に唇を寄せると

 

いつかね…

 

そう言って、琴子は入江ににっこり微笑む

 

そして

 

「でも、まずは正一くんとのデートだね」

 

そういって、琴子は入江の腕にぶら下がり

 

 

どちらともなく、キスをしたのだった――…

 

 

 

 

 

おまけ

 

「コホンっ…」

 

「えっ…、うわっ、し、清水主任!!」

「…入江先生、それに琴子さん。仲がよろしいのはいいですけど、そう言うことは院内で控えてもらえますか。それからっ、琴子さん。朝食を落とすなんてなに考えてるんですかっ、早く掃除しなさいっっ!」

「ひ、ひえっ」

「…ま、がんばれよ」

「そ、そんなぁ。入江くーんっ」

 

 

 

あとがき:

 

カウントダウン第3弾。

…な、なんとか、書けました(^^;

もしかしたら、知ってる人もいらっしゃるかもしれませんが、このお話に出てくる、『正一くん』は「言葉にならないコトバ」という以前に書いた、お話に名前だけ出てきます。

反則かなぁ。と思いつつ、ついつい書いてしまいました(そろそろ、ネタ切れか?)

 

次は、4弾で(^^)

 

 

 

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6/08/2003