エージェント気分に7のお題
或る兵隊長と兵隊のお話
1 状況報告
「あー、隊長報告します」
「ばっかもん、そんなだらしの無いやつがおるか!きびきび言わんか、きびきびと」
「まぁ、どっちでもいいんスけど、来ましたぜ、奴が」
「何!奴か!」
「はぁ、奴です」
2 通信傍受
「しかし、なぜ、奴はこちらの場所がわかったのだ」
「はぁ、何ででしょうね、ちなみにこれヒントだと思うっス」
「む、それは我輩の通信機ではないか」
「別名、糸でんわともいいますねぇ」
「すると奴はコレの通話を傍受したと!?」
「や、単にこの糸のあと辿っただけだと思うっス」
3 要人警護
「というわけで、奴が来る!だからあれを何が何でも奴の手から守るのだ」
「守るって言ってもなぁ、実はですね」
「だから、もっときびきびと話せと…なんだ」
「実はこんなもんが…それから、もう奴にあれ取られてしまいました」
「な、」
「そんでこの手紙をおいてきました」
「な、な、な…い、いつのまに!」
「そりゃあ、あなたがトイレ休憩に行ってる間でしょうか」
4 暗号解読
「ま、まぁとられたものは取り返せばいい」
「前向きな言い逃れっスね」
「うるさい!だいたい現場にいて、奴を捕まえ損ねたお前が言える立場か!…まあいい、それで奴は何を置いていったのだ」
「ただの手紙っすよ、ただし」
「む、これは…」
「読めないんですがね」
「な、なんと奴め暗号で寄こしてくるとは!なんだこれは始めて見る暗号だなシーサーか、ゲマトルリアか!?」
「ただ汚くて読めないだけっスよ」
5 別行動隊
「くっ、最後の手がかりも解読できず、われわれの挽回の道は閉ざされたのか」
「いやもう、最後っ屁みたいな落書きを手がかりと言われてもですねぇ、あ、そういえば隊長の糸電話の相手…ていうか、一応見張りのあいつらはなんて言ってたんっスか?」
「おお、別動隊のあいつらか!あやつらならわれわれの部屋を見張っていたはずだから、奴の行方をしっとるはずだ」
「そんな大層なもんじゃないと思うっスよ、だってあいつら見張り部屋のビデオで圭吾秘蔵のAV見るって喜んでましたし、いいよなぁ…」
「……減俸してやる」
「もちろん、そのつもりで告げ口しました、だって俺だけ見れないし」
6 犯人追跡
「もういい、我々だけで奴を追うぞ!」
「えー」
「何か、言ったか」
「何でもないっス。けどそれ服務規程違反ですよ、もしくはルール違反」
「何をいう、我輩がルールだ!」
「それいったら終わりですって…、おーい、いまから隊長追っかけるみたいだから犯人とにかく逃げろー」
『えー、じゃあにげますー』
「あ、まだ近くに居るみたいですね、如何します?あっちみたいっスよ」
「……貴様こそルール違反もいいところではないか?」
「何をいいます、ルールは破ってこそルールというのが我家の家訓です。敵を騙して味方も騙す、これ常識です」
「どんな常識だ」
「いいじゃないですか、単なる思想の違いっス。さあ、ルール無用の鬼ごっこ、まだ続けるんでしょう?」
7 兵器破壊
「さぁ、隠れんぼde鬼ごっこ終了ー。勝者「上司チーム」でしたー」
「ってそりゃないですよ、副隊長ぉ。隊長が居ない間に取りに来なさいって言ってくれたの副隊長じゃないですかぁ。なのに、後から電気銃まで仕込んで捕まえるなんてひどいです」
―ごほん。
「何だい、鬼の田中圭吾くん、あ、鬼を見張りに行った山田くんたち、あとで田中からの賄賂ビデオ没収な、それから隊長が減俸だって」
「「えーーーっ」」
―ごほん、ごほん。
「まぁそんな訳で、「第2回 食堂チケット上司から奪えたら一ヶ月ただ飯だよ選手権」はまた来月開催するからその予定で」
「「えーーーっ」」
―ごほん、ごほん、ごほん。
「何スか隊長?風邪ですか、いやだなぁ移さないでくださいよ」
「違うわ馬鹿もん!何だこれは!?敵が侵入して、我が基地の秘密兵器の破壊を目論んでたのではないか!?」
「ああすみません。嘘でした」
「貴様――!」
「だって、隊長暇だって言うから、コレでも俺結構苦労して、あちこちに根回しして、部下も言いくるめて、それっぽく演出してみたんじゃないですか」
「で、では。予告状は!?」
「もちろん俺が作りました、俺根っからの善人だから悪党っぽく予告状とか作るの苦労しましたよ、ちなみにモンキーパンチと北条司先生を参考にしてみました」
「じゃ、じゃあ、あの暗号文は!」
「あ、あれ俺の愛娘の俺へのラブレターっス。いやぁ我が娘ながらすばらしい字で」
「ふがーーーっ!きさまぁ!俺の久しぶりのこの情熱を、貴様と言う奴はぁ!!」
「だって隊長、毎日穴埋めばっかじゃ、情熱が枯れてしまう、っていつも煩いから。穴埋めあんなに楽しいのに」
「俺らは兵隊だー!戦わずして、何が兵隊か!」
「えー、平和ってことじゃないですか、いいことですよ」
「俺らの仕事はな――」
「はいはい、戦って市民を守るって言うんでしょ。でも市民の生活を守るって意味なら穴埋めも、配達も大事な仕事でしょ」
「うっ、しかし、だな。やっぱりそれは暇だし」
「だから、俺が苦労して隊長のためにスリルある生活を演出してるんじゃないですか。で、どうします第2回。やりますか?」
「………やる」
「んじゃ、決定―。おーい、お前ら聞いたかぁ。次もやるぞー」
「「うぇ〜」」
「今度は副賞に、山田のAVも付けてやる」
「「了解しました――っ!」」
「俺のクリスチーヌがー!やめろー、穢れるー!」
「諦めろ、山田。さ、お前ら今日も仕事の穴埋めと荷運び仕事に戻れー」
「「了解!」」
「さ、あいつらも行ったし。我々もいつもの仕事に戻りますか」
「うう、男のロマンがぁ、スリルが欲しいよぉ」
「まあまあ隊長、ほらあれをご覧ください」
「なんだ?部下が町人たちと畑仕事をしているのが、どうかしたのか」
「何を?コレがロマンというやつじゃないですか」
「ああ?」
「あれこそ、兵隊のロマンじゃないっスかね。少なくとも俺はそう思います」
「ふーむ?」
「ま、隊長は次回までに作戦でも練ってください。とりあえず、糸電話は改良しとかないと」
「そ、そうだな。作戦!うむ、作戦を考えねば。仕事が終わったら作戦会議だ」
「そうっすね」
次はどんな侵入者を演出しようか、と。
でこぼこ道の舗装と、補給物資の配達と、町人と畑の耕す部下と隊長を眺めて、微笑みながらかつては智謀を謳われた副隊長は考えるのだった。
完
※このお話は『気軽に7のお題』(和泉あさぎ様)、「エージェント気分に7つのお題」を元に作らせていただきました。